医療ビッグデータを用いた小児臨床研究
研究紹介
医療ビッグデータを用いた小児臨床研究
東京大学小児外科は、東京大学大学院医学系研究科臨床疫学・経済学教室(康永秀生教授)とDPCデータなどの医療ビッグデータを使った臨床研究を共同で行っています。
近年、リアルワールドの医療ビッグデータの利用環境が整備されつつあり、小児領域でもその研究成果が多数報告されています。特に、米国からはthe American College of Surgeons National Surgical Quality Improvement Program-Pediatrics (NSQIP-P)、Kids’ Inpatient Database等を利用した研究が多数報告され、新たなエビデンスが構築されています。日本においても、診療報酬請求データ(administrative claims data)である全国レセプトデータ(NDB)やDiagnosis Procedure Combination (DPC)データ、学会保有の症例レジストリー(National Clinical Database (NCD)など)を利用した研究が進められています。
医療ビッグデータの多くには、臨床情報が限られるというデメリットはあるものの、単施設で集めることのできない圧倒的なサンプル数を利用することができるというメリットがあります。希少疾患を対象とする小児外科領域は、全国規模で症例を集積し研究することが大切です。しかし、多数の疾患に対して、全国規模の多施設共同研究を行うことは莫大な労力、時間、経費を要するため現実的には一部の疾患でしか行われていません。しかし、既存の医療ビッグデータを使えば、それらを大きく削減することができます。
いままでに、稀少疾患の疫学、診療パターン分析(practice pattern analysis)を報告し、さらに、医療ビッグデータに適した応用統計手法を導入し、傾向スコア、操作変数、差の差の検定などの統計的因果推論を用いた臨床効果比較研究も行っています。
いままでにないスピードで小児外科領域における新知見が発見されることが期待されます。
National Clinical Databaseデータを使った学術研究
東京大学小児外科ではNational Clinical Database(以下、NCD)を利用して後方視的研究を行っています。
現在、小児の嚢胞性肺疾患の多くは出生前診断され、周産期の迅速な介入により安全な管理がされるようになってきています。出生直後から呼吸器症状を伴う症例は出生後早期の手術が絶対適応ですが、出生直後に無症候性の症例の至適手術時期に関してはいまだ多くの議論があります。全体としては1歳未満の手術を推奨する報告が多いですが、施設ごとに判断されているのが現状です。個々の症例に適した様々な観点から手術時期を見極めることは大切ですが、一定の基準として参考にできる研究成果自体が存在していないのが現状です。まずは月齢、体重が本疾患の手術難易度にどう影響しているのか、その関連性を正確に検証し、ひとつの大きな手術至適時期の基準を示すことを本研究の目的です。
業績
- Fujishiro J, Fujiogi M, Hirahara N, Terui K, Okamoto T, Watanabe E, Ishimaru T, Miyata H.
Abdominal drainage at appendectomy for complicated appendicitis in children: A propensity-matched comparative study.
Ann Surg. 2020, in press. - Fujiogi M, Michihata N, Matsui H, Fushimi K, Yasunaga H, Fujishiro J.
Clinical features, practice patterns and outcomes of omphalocele: a descriptive study using a nationwide inpatient database in Japan.
Ann Clin Epidemiol. 2: 61-68. 2020. - Fujiogi M, Michihata N, Matsui H, Fushimi K, Yasunaga H, Fujishiro J. Early Outcomes of Laparoscopic versus Open Surgery for Urachal Remnant Resection in Children: A Retrospective Analysis using a Nationwide Inpatient Database in Japan. J Laparoendosc Adv Surg Tech A. 2019. (Accepted)
- Fujiogi M, Michihata N, Matsui H, Fushimi K, Yasunaga H, Ishimaru T, Fujishiro J. Factors affecting successful atropine therapy for infantile hypertrophic pyloric stenosis: a retrospective analysis using a nationwide database in Japan. Annal Clin Epideomiol. 2019;1:4-10, April epub
- Fujiogi M, Michihata N, Matsui H, Fushimi K, Yasunaga H, Fujishiro J. Postoperative Small Bowel Obstruction Following Laparoscopic or Open Fundoplication in Children: A Retrospective Analysis Using a Nationwide Database. World J Surg. 2018. Dec;42(12):4112-4117.
- Fujiogi M, Michihata N, Matsui H, Fushimi K, Yasunaga H, Fujishiro J. Clinical features and practice patterns of gastroschisis: a retrospective analysis using a Japanese national inpatient database. Pediatr Surg Int. 2018 (in press)
- Fujiogi M, Michihata N, Matsui H, Fushimi K, Yasunaga H, Fujishiro J. Outcomes following laparoscopic versus open surgery for pediatric inguinal hernia repair: Analysis using a national inpatient database in Japan. J Pediatr Surg. 2018 Mar 17.
学会発表
- 藤雄木亨真, 道端伸明, 康永秀生, 藤代準
小児の嚢胞性肺疾患に対する手術至適時期,並びに手術リスクの検討―National Clinical Database による調査研究
第56回日本小児外科学会学術集会(2019.5.22-5.24 久留米) - 藤雄木亨真, 道端伸明, 康永秀生, 藤代準
小児虫垂切除術に対する肥満・やせの影響:DPC データベースを用いた検討
第56回日本小児外科学会学術集会(2019.5.22-5.24 久留米) - 藤雄木亨真, 道端伸明, 康永秀生, 藤代準
小児尿膜管遺残に対する開腹手術と腹腔鏡手術の術後成績の比較:DPC データベースを用いた検討
第56回日本小児外科学会学術集会(2019.5.22-5.24 久留米) - 石丸哲也, 藤雄木亨真, 道端伸明, 康永秀生, 川嶋寛, 藤代準
先天性心疾患の合併が食道閉鎖症根治術に与える影響の検討:DPC データベースを用いた解析
第56回日本小児外科学会学術集会(2019.5.22-5.24 久留米) - 藤雄木亨真, 道端伸明, 康永秀生, 藤代準
本邦における腹壁破裂の臨床像と治療の現状:DPCデータベースを用いた検討
第55回日本小児外科学会学術集会(2018.5.30-6.1 新潟) - 藤雄木亨真, 道端伸明, 康永秀生, 藤代準
本邦における臍帯ヘルニアの臨床像と治療の現状:DPCデータベースを用いた検討
第55回日本小児外科学会学術集会(2018.5.30-6.1 新潟) - 藤雄木亨真, 道端伸明, 康永秀生, 石丸哲也, 藤代準
肥厚性幽門狭窄症におけるアトロピン静注療法の成績と成功因子の検討:DPCデータベースを用いた検討
第55回日本小児外科学会学術集会(2018.5.30-6.1 新潟) - Fujiogi M, Michihata N, Yasunaga H, Fujishiro J.
Postoperative adhesive small bowel obstruction following laparoscopic or open fundoplication for gastroesophageal reflux in children
IPEG’s 27th Annual Congress (2018.4.12-14, Seattle) - 藤雄木亨真, 道端伸明, 康永秀生, 藤代準
DPCデータベースを用いた小児鼠経ヘルニアに対する開腹手術と腹腔鏡手術の比較
第118回日本外科学会学術集会(2018.4.5-7 東京)