内視鏡手術(腹腔鏡手術・胸腔鏡手術)

診療内容

内視鏡を用いた傷が小さく目立たない手術 – 子どもの成長を妨げない治療とは –

現在、内視鏡手術は低侵襲手術として広く行われるようになっており、それはお子さまの手術においても同様です。小さな体向けの手術器具などの開発も進み、数年前には一部の施設でしか行われていなかった手術も保険適応になり、いまでは多くの施設で行われるようになっています。当科では、様々なご病気に対して積極的に内視鏡手術を行い、豊富な経験を積み上げてきました。
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子どもは大人とは異なり、治療後も心身の著しい成長発達が必須です。ただ病気を治すのではなく、成長発達を妨げないようにしなければなりません。体への負担が少なく、傷あとが目立たない内視鏡手術は、小児にこそ必要であり、より有意義であると考えています。しかし、開腹、開胸手術と同じことを小さなお子さまに内視鏡手術で行うためには、高度な技術が必要です。そのため、当科では安全で侵襲の低い内視鏡手術をめざし日々努力しております。その業績、研究の一部は他ページをご参照ください。

「業績」の詳しいご紹介

小児外科領域における内視鏡手術はお腹の中(腹腔)の手術を行う腹腔鏡手術と胸の中(胸腔)の手術である胸腔鏡手術に分けられます。

内視鏡手術とはなんですか?

お腹の中(腹腔)/ 胸の中(胸腔)に直径3-5mm程度の長細いカメラを入れ、お腹/胸の中をテレビモニターに映しながら行う手術のことです。二酸化炭素などでお腹/胸を膨らませて、5-10mm程度皮膚を数カ所切開し、カメラ / 手術操作をするための細い器具(鉗子など)を数本入れて手術をするのが一般的です。お腹をあけて行う「開腹手術」 / 胸をあけておこなう「開胸手術」に比べて、傷も小さく、術後の回復も早いため、低侵襲(からだへの負担が少ないこと)手術と呼ばれています。

内視鏡手術のメリットを教えてください。

1. 傷が目立たない
開腹 / 開胸手術とは異なり、傷が小さく美容的な差は明らかです。傷を隠して生活するようなことも減り、より元の生活に戻りやすいと考えられます。開腹 / 開胸手術と比較して筋肉の切開が非常に小さいため、今後の成長発達を妨げることはほとんどないと考えられます。また、腹腔鏡手術の中にはお臍からカメラと手術器具を同時に入れておこなうものもあり(単孔式手術)、傷は臍のみになることもあります。
2. 痛みが少ない
1つ1つの傷が小さいため、痛みは軽く、痛みのある期間も短いです。また、痛みが少ないので歩けるようになるのも早いです。痛みどめ薬(鎮痛薬)の使用頻度や使用期間も減少することが知られています。
3. 術後の回復が早く、早く退院できる
傷が小さく、痛みが少ないため、術後の早期離床が可能で早期に通常の生活に戻ることが可能です。また、腹腔鏡では腸の運動が回復しやすく、早く食事が開始できます。結果的に入院期間が短くなることが知られています。
4. 手術の際に、体の中を観察しやすい
開腹 / 開胸手術ではお腹/胸を切った範囲を上からしかみることができませんでしたが、内視鏡手術では長細いカメラを挿入することができ、お腹 / 胸全体をさまざまな角度から観察することができます。またカメラで拡大して細かい血管、神経などを確認することができ、より繊細で確実な手術が可能です。技術の進歩によりハイビジョンや4Kのモニターも使用されるようになり、いままでは肉眼で確認できなかったものまで見えるようになりました。子どもの小さな臓器の手術などでは特に有効です。
5. 腸閉塞(術後合併症のひとつ)が少ない
お腹の手術の合併症として、腸と腸や腸と腹壁が癒着し、食べ物の通りが悪くなる腸閉塞があります。腹腔鏡手術では傷が小さく臓器を最小限にしか触らないため、癒着する可能性が低く、開腹手術に比べて腸閉塞の危険性が低くなると言われています。(可能性がゼロになるわけではありません。)

内視鏡手術のデメリットを教えてください。

1. 手術時間が長くなることが多い
様々な器具を用意したり、何度も入れ替えたりするため、手術時間が開腹/開胸手術より長くなることが多いです。ただ、内視鏡手術に慣れた施設であれば極端に時間が伸びることはなく、お子さまの術後の成長発達に悪影響はないと考えられています。
2. 手術操作には開腹 / 開胸手術とは違った技術、修練が必要
3次元の世界を2次元に映して手術を行うため、開腹/開胸手術とは違った技術が必要です。だれしもが最初から行えるものではなく、内視鏡手術特有の訓練が必要です。当科では、モデルを使用した内視鏡手術訓練の研究も行っており、内視鏡手術の安全な普及に貢献しております。
「小児内視鏡外科手術に関する研究」の詳しいご紹介
3. 内視鏡手術の限界
炎症が強い場合などは内視鏡手術のほうが危険な場合もあります。整容面のメリットを重視するあまり、安全性が損なわれてはいけません。そのため、状況に応じて手術途中で開腹 / 開胸手術に切り替えることがあります。
4. 開腹 / 開胸手術と比較し、歴史が浅い
開腹 / 開胸手術と比較し、歴史の浅い手術であるため現時点での長期的な成績、予後が不明のものもあります。しかし、開腹 / 開胸手術で行っていることを、より小さな傷で行う方法に切り替えて行っているだけであり、将来的に予後は変わらないであろうと考えられています。

うちの子の病気は内視鏡手術で治せますか?どんな傷で治せますか?

当科では数多くのご病気を内視鏡手術で行っています。他院では一般的に開腹もしくは開胸でおこなわれているご病気にも積極的に行っています。しかし、すべての手術において、開腹手術と比べて、内視鏡手術が勝っていると考えてはおりません。それぞれのお子さまの特性、病気、術式におけるメリットとデメリットをよく考慮した後に、メリットが大きく上回るものに関しては内視鏡手術を選択致します。詳しくは、当HPの病気の説明のページをご覧ください。

「病気の説明」の詳しいご紹介

内視鏡手術の相談だけでも結構ですので、ぜひお気軽にご連絡ください。緊急に相談したい場合は、現在の主治医の先生より当科にご連絡頂ければ迅速に対応させて頂きます。セカンドオピニオンも積極的に受け付けています。お子さまの体に優しい内視鏡手術を目指し、当科一同最善の努力をしていきます。

「セカンドオピニオン」の詳しいご紹介

実際の手術ビデオ

東京大学医学部附属病院小児外科では、多くの小児外科疾患に内視鏡手術を取り入れております。
鼠径ヘルニア、急性虫垂炎、肥厚性幽門狭窄症などの日常疾患の手術のみならず、食道閉鎖症、鎖肛根治術、肺葉切除などの高難度手術に対しても、麻酔科、新生児科、呼吸器外科などと協力して安全な手術を行っており、症例を重ねてきております。
*症例によっては内視鏡手術が適応にならない場合もありますので、担当医とよくご相談ください。

<当科で内視鏡手術を行っている疾患>
急性虫垂炎、鼠径ヘルニア、腸重積症(非観血的整復不能症例)、肥厚性幽門狭窄症、非触知停留精巣、精索静脈瘤、漏斗胸、尿膜管遺残、メッケル憩室、食道閉鎖症、高位鎖肛、Hirschsprung病、腸回転異常症、横隔膜ヘルニア、肺嚢胞性疾患(肺分画症を含む)、腎盂尿管移行部狭窄症、脾臓摘出手術(溶血性貧血による脾機能亢進)、噴門形成(GERD、食道裂孔ヘルニア)、先天性十二指腸狭窄症、先天性胆道拡張症

以下は実際の手術ビデオになります。
実際の体腔内の臓器や血液などの映像となっています。ご視聴の際にはご注意ください。

1.女児の腹腔鏡下鼠径ヘル二ア根治術
鼠径ヘルニアに対して、対側の確認(反対側のヘルニアが大丈夫か?)ができ同時手術も可能であるというメリットと通常の鼠径部切開の手術と成績に差がないことを理由に男女とも腹腔鏡手術を行っております。もちろん鼠径部切開による従来からの手術も可能です。
2.腹腔鏡下肥厚性幽門狭窄症手術
生後1-2ヶ月ごろに多い疾患ですが、腹腔鏡の拡大した視野で幽門筋の切開を行っています。臍部と2カ所の5mm程度の小さな創で安全に行うことができます。
3.胸腔鏡下食道閉鎖根治術
高難度手術ですが、麻酔科の先生と協力して拡大された視野で安全な手術を手がけています。術後の回復や将来的な胸郭変形のリスクが低いなどメリットは大きい手術と考えています。2kg以上で、重症な心疾患のない患者さんに対して行っています。
4.腹腔鏡補助下高位鎖肛根治術
以前は開腹手術を併用して行っていた手術ですが、開腹の部分を腹腔鏡による剥離操作で行いかつ神経筋刺激装置を用いて肛門括約筋・挙筋群のpull throughルートを確実に同定するように心がけています。
5.胸腔鏡下肺下葉切除
心臓や大血管と隣り合わせの高難度手術ですが、凝固切開装置や自動縫合器などを駆使し呼吸器外科医師の助言を得ながら安全かつ胸部の切開創が小さくなるように手術を行っています。