当科で治療している主な病気

診療内容
新生児(生まれたばかりの赤ちゃん)
• 先天性食道閉鎖• 先天性腸閉鎖症 (十二指腸閉鎖, 小腸閉鎖, 結腸閉鎖)• 先天性横隔膜ヘルニア• 鎖肛• 壊死性腸炎• 臍帯ヘルニア• 腹壁破裂
先天性食道閉鎖症とは
食道閉鎖症は、食道が途中で途切れているため、生まれてすぐに手術が必要な病気です。図1のように隣にある気管との間に通路(*気管食道瘻)があることが多く、瘻孔のつながり方によって5つの型に分類されます。食道閉鎖症の子どもの3割は出生体重2500g未満の低出生体重児です。また,約半数の子どもに心臓、脊椎、消化管、腎などに奇形を合併します。発生頻度は3000~4500人に1人程度で、男女比は1.4:1とやや男児に多いといわれています。
症状
 出生前診断では、胎児が羊水を飲み込めないため羊水が多いこと(羊水過多)や、胃が見つけられないことで疑われます。約4割の方が出生前診断されています。 生まれた後は、口や鼻から唾液があふれたり、哺乳を開始するとむせて呼吸状態が悪くなったりすることで疑われます。E型は食道が分断されていないので、繰り返す肺炎などで乳児になってから診断されることがあります。
治療
 気管とのつながりを閉じて、分断された食道をつなぐ手術が必要です。上下の食道の間隔が大きく、1回でつなげないときは2回以上に分けてつなぐ場合もあります。胸を開ける手術のリスクが高い場合、肺炎を予防する目的で胃の逆流防止と胃瘻をつくる手術を行う場合もあります。
合併症
私たちは安全第一に手術を行っていますが、合併症はゼロではありません。今まで当科では経験したことがない合併症も含め一般的に知られているリスクをご説明致します。 食道をつないだところが術後に漏れてしまい(縫合不全)、膿の塊を作ったり全身の細菌感染症をおこしたりして入院期間が長くなる場合があります。このような場合、閉じたはずの気管食道瘻が再開通してしまい、肺炎を繰り返すこともあります。また、つないだところが術後しばらくたって狭くなってしまい、食べ物が通りにくくなるために食道拡張術(食道バルーン拡張術など)が必要になることがあります。
先天性腸閉鎖症・狭窄症とは
先天的に腸(十二指腸、小腸(空腸、回腸)、結腸)の一部が途切れている(閉鎖症)、もしくは狭くなっている(狭窄症)病気です。本邦では直腸肛門奇形についで多く見られる赤ちゃんの外科疾患であり、2000~5000人に1人の割合で発症します。胎児期に腸が捻じれることや、何らかの原因で腸の血流が途絶えて壊死してしまうことで起こると言われています。もっとも多い閉鎖・狭窄部位は十二指腸(45%)で、次いで回腸(30%)、空腸(20%)の順になっています(図1)。閉鎖・狭窄部位や形態によって、重症度は様々になります。現在では、十二指腸や空腸の閉鎖・狭窄である場合、出生前診断で見つかることが多くなっています。
症状
ミルクや消化液が閉鎖部・狭窄部の手前に貯まり、出生後早期から嘔吐をきたします。そのままの状態ではミルクを摂取できません。ミルクを吸収できず、消化液を喪失してしまうので、脱水になります。閉鎖部位によりますが、吐物が緑色になったり(胆汁性嘔吐),お腹が強くはったりします。生後24時間以内に胎便が排泄されない胎便排泄遅延を起こすこともあります。また、閉鎖部・狭窄部の手前がミルク・消化液・飲み込んだ空気により拡張し、裂けて孔があいてしまう危険性もあります(穿孔)。
治療
まずは、閉鎖・狭窄部位にミルクや消化液がそれ以上貯まらないように、鼻から胃まで管を通してたまった腸内容を吸引します。さらに点滴で脱水の補正を行います。状態が良くなったところで手術を行います。穿孔を起してしまったときには、緊急手術が必要になります。また、使える腸が極端に短くなってしまう短腸症候群を合併してしまうこともあり、術後長期間に渡って点滴治療が必要となる場合があります。
手術方法
手術は閉鎖・狭窄部の手前と後ろを縫い合わせて繋ぎます。小腸閉鎖の場合は、閉鎖部・狭窄部を切除します。十二指腸が膜により閉鎖・狭窄している際は、その膜を切除するのみのこともあります。お臍のみの傷で手術をする場合や、腹腔鏡手術を行う場合もあります.
合併症
私たちは安全第一に手術を行っていますが、合併症はゼロではありません。今まで当科では経験したことがない合併症も含めて、一般的なリスクとしては、以下のものが知られています。
縫合不全
縫い合わせて繋いだ部分にほころびが起こり、腸液が漏れてしまいます。腹膜炎を起こし、お腹がはり、発熱を来します。再手術が必要になります。再度繋ぎ直したり、腸瘻(人工肛門)を造ったりすることで対応します。
吻合部狭窄
閉鎖・狭窄部の手前と後ろで腸の太さが異なるので、必然的に繋いだ部分(吻合部)は狭くなります。時間とともに改善することが多いですが、術後1~2週間程度は腸管が拡張し、お腹がはり、腸液が流れないこともあります。しばらく待っても通過が得られないときは、再度手術を行い、繋ぎ直さなければならない場合もあります。
先天性横隔膜ヘルニアとは
 先天性横隔膜ヘルニアは、生まれつき横隔膜(胸と腹を隔てる膜)に孔があいていて、おなかの中にあるべき腹部臓器が胸の中に脱出してしまう病気です。孔の大きさに応じて小腸・大腸・胃・脾臓・肝臓などの腹部臓器が胸の中に脱出します。発生頻度は2000~5000人に1人程度で、8割は左側に発症します。
症状
 約75%が出生前診断されています。胎児エコーで胸の中に胃や腸が見えたり、心臓が脱出した小腸などにより押されていたりする様子で気づかれます。脱出した臓器が多いと、肺が押されることにより肺の発達が障害されます(肺低形成)。生まれた後は呼吸不全や循環不全に対処するため、診断がつき次第、新生児科や小児外科を含めて十分環境の整った施設で管理する必要があります。孔が小さい場合、幼児になってから呼吸器症状や嘔吐などの症状で偶然発見される場合もあります(遅発例、約5%)。
治療
 一般的に、呼吸状態と循環状態が落ち着いたところで、生まれてからなるべくすぐに横隔膜を閉じる手術を行います。孔が小さければ直接縫い閉じますが(縫合閉鎖)、大きければ人工膜をあてて閉鎖します。胎児治療が行われることもあります。
合併症
私たちは安全第一に手術を行っていますが、合併症はゼロではありません。重症度によって治療成績は全く異なります。軽症例は手術による障害がないことが多いですが、肺低形成を伴う重症例では、長期間にわたって呼吸不全や成長障害、胃食道逆流症、漏斗胸などの合併症や後遺症が残ることが知られています。
直腸肛門奇形(鎖肛)とは
直腸肛門奇形(鎖肛)とは、直腸及び肛門がうまく形成されなかった病気です。おしりに全く肛門が形成されていないもの、小さな穴(瘻孔)が形成されているもの、肛門の位置がずれているものなどがあり、正常な位置に肛門が形成されていません。5000人に1人の割合で発症する、赤ちゃんの外科疾患の中で最も多い病気です。胎児期の初期には、直腸や肛門は尿路とつながってひとつの腔(総排泄腔)になっています。それが、妊娠の2か月半頃までに直腸・肛門と尿路に分離します。女児では、分離した後に直腸と尿路の間に膣や子宮が下りてきます(図1)。直腸肛門奇形(鎖肛)は、この発生途中の異常により起きる病気です。
症状
正常な位置に肛門が形成されていないので、おしりを診ただけでわかることが多く、生まれた直後に診断されることが多いです。出生前診断されることもまれにありますが、たいていの場合は生まれた後に診断されます。しかし、気付かずにミルクを飲んだ後に、おなかがはったり、吐いたりしてから診断されることもあります。直腸と尿路や膣が繋がっている場合(瘻孔)があり、男児では尿に便が混じったり(図2)、女児では膣から便が出たりすることがあります。また、幼児期に便秘の治療中に、肛門の位置がずれている事に気づかれて診断されることもあります。
病型
男児の場合は陰嚢に、女児の場合は膣の入り口の近くに瘻孔がある場合は診ただけで診断できる場合が多いです(低位型)。しかし、診ただけでは診断できない場合は、X線検査や超音波検査で、直腸盲端の位置を評価します。その高さにより、高位型、中間位型、低位型の3つの病型に分類します。この高さは直腸盲端が排便機能に関わる筋肉(恥骨直腸筋)に届いているかどうかの目安になり(図3)、将来的な排便機能において重要になります。次に、造影検査により、直腸や尿路や膣との繋がり(瘻孔)の有無・位置を評価します。このように病型を判断して、赤ちゃんの治療方針を決定します。
治療
低位型:病型によりますが、新生児期に肛門を造る手術(根治手術)を行う場合も多くあります。生まれた直後や数日以内に行われることも多いです。女児に多い、膣に接して瘻孔が開口している病型の場合(肛門膣前庭瘻)は、瘻孔をヘガールブジーという金属性の器具で拡げて、排便できるようにします。その後、乳児になって赤ちゃんの体格が大きくなってから根治手術を行います。
中間位型・高位型:新生児期に肛門を造る手術を行いません。排便機能にかかわる筋肉が発達してから肛門形成を行います。しかし、そのままではミルクを飲めないので、一時的に人工肛門を造ります。便路を確保し、ミルクを飲めるようにします。その後、乳児になって赤ちゃんの体格が大きくなってから、根治手術を行います。根治術のタイミングや術式は、本人の状態や病型に合わせて決定します。根治術後に人工肛門を閉鎖する手術を行うと、肛門から排便できるようになります。
手術方法
低位型:瘻孔の位置が正常の肛門に近い場合は、瘻孔から本来肛門があるべき位置まで切り開く事で肛門を造ります。瘻孔の位置が遠い場合は、瘻孔をくり抜いて、本来肛門があるべき位置まで移動させます。瘻孔が無い場合は、本来肛門がある位置を切開して、直腸盲端を探して引き下ろします。
中間位型・高位型:直腸盲端を探して、排便機能に関わる筋肉(恥骨直腸筋)に直腸を正確に通して、肛門を造ります。また、瘻孔が尿路や膣に繋がっている場合が多く、正しい位置で瘻孔を切り離すことも重要です。お腹側からもしくは、おしり側からアプローチします。当科では腹腔鏡手術を行っており、カメラでお腹の中から恥骨直腸筋を拡大して視ることで、正確に直腸を通すルートを決定しています。
予後
排便機能は、低位型では多くは良好になりますが、中間位型や高位型では便秘や便失禁などの排便障害がみられることが多くなります。一番の問題点は便失禁ですが、浣腸を行うことで予防できることが多いです。多くの症例が、学童期・思春期には便意の改善とともに、自分なりの排便管理が身に付きます。当科では、保育園・幼稚園・学校での日常生活を問題なく送れることが最も重要であると考えており、排泄ケアを専門とする看護師と協力して、一日も早い排便機能の確立のために、お子さまとご両親のストレスにならない管理を目指しています。
壊死性腸炎とは
 腸への血液の流れが障害され、それに細菌などの感染が加わることにより腸が壊死に陥る病気です(図1)。生まれてから30日未満(特に1週間以内)の赤ちゃん、特に妊娠週数が32週以下の早産児や生まれた時の体重が1500g未満の赤ちゃんに起こる危険性が高いですが、生後30日目以降にみられることもあります。最近の新生児医療の進歩により体重の小さな赤ちゃんの命が助かるようになってきたため、壊死性腸炎の発生が増加しているといわれています。
原因
 壊死性腸炎の原因はまだ完全にはわかっていませんが、小さな赤ちゃんの腸の未熟性、血液の流れの障害、細菌感染がその要因となります。腸の免疫や運動、腸内細菌叢が未熟なために腸内細菌が異常に増え、さらに血液の流れが障害されて腸の壁に傷ができ、細菌が腸の壁の中に入り込み壊死をおこすと考えられています。お母さんのお腹の中にいる時や出産の時に、赤ちゃんの体の血液の流れが一時的に悪くなり酸素が少なくなる状態(仮死、呼吸の異常、循環の異常、先天性の心臓病など)や、子宮内や出産時の感染が加わると発症する危険性が高くなることがわかっています。近年、母乳とプロバイオティクスにより壊死性腸炎を発症するリスクが低下することが示唆されており、できるだけ母乳をあたえること、早産児などリスクのある赤ちゃんには早期からプロバイオティクスを投与することが、その予防につながると考えられています。
症状と診断
 病気の進行状況によって三つの時期に分けて考えられます。
I 期(疑いの時期)
お腹がはる、ミルクの飲みが悪くなる、胃の中にミルクが残る、ミルクを吐く、元気がないなどの症状があります。体温の変動、脈が遅くなる、呼吸数が少なくなるなどの症状もあり、便潜血(検査で便の中に少量の血液が混じる)もみられます。X線写真では、ほとんど正常か、腸の中に少しガスがたまってみえます。この状態では、まだ壊死性腸炎が疑わしいというだけで断定はできません。
II 期(確実な時期)
I 期の症状に加え、肉眼的に明らかな血便がみられ、お腹のはりが強くなってきます。X線写真では、腸の中のガスの量が著しく増え、注意してみると腸の壁の中に入り込んだ小さなガスが見られたり、門脈(腸と肝臓をつなぐ血管)の中にもガスが見られたりするようになります。この状態になると、壊死性腸炎の診断がほぼ間違いないものとなります。
 III 期(重症になった時期)
II 期よりもさらに症状が進行し、血圧が下がるなどのショック状態となり、血便や胃管(治療のために胃の中に入れた管)からの出血もみられます。腸の壊死が進行すると穿孔(穴があく)した状態になり腹膜炎となります。穿孔がおこると、X線写真では、腸からお腹の中に漏れたガス(腹腔内遊離ガス)が見られます(図2)。
治療
 前に述べた三つの時期によって異なります。初期の段階ではミルクを止めて腸の安静を図る、点滴を行い抗生物質を投与する、などの内科的な治療が中心になります。進行した場合は広い範囲の腸が壊死になったり、腸が穿孔したりしますので、外科的な手術が必要になります。手術の方法は、それぞれの赤ちゃんの腸の状態によって異なりますが、一般的には壊死になった腸を切り取り、元気な部分の腸どうしを繋ぐか、あるいは腸を繋がないでいったんお腹の外に腸を出しておく手術(腸瘻手術)が行われます。腸瘻手術の場合は、赤ちゃんが元気になった時点で腸を繋いでお腹の中にもどす手術が行われます。
予後
 新生児に対する医療が進歩したことで、壊死性腸炎になっても赤ちゃんが生存できる可能性は高くなってきました。しかしこの病気は、非常に小さな赤ちゃんがかかることが多いため、進行した場合には未だ赤ちゃんの命を救うことは困難です。また生存できた場合でも、壊死になり切り取る腸が多くなると、残った腸が短くなり、長い期間点滴や特殊な栄養剤による栄養補助が必要になったり(短腸症候群)、腸が狭くなったりするなどの後遺症がでることもありますので注意が必要です。
臍帯ヘルニア
胎児のお腹の壁は、お母さんの子宮の中で胎生早期(3~4週)に作られますが、それが正しく作られないとお腹の壁に穴ができてしまい、赤ちゃんはへその緒(臍帯)の中に胃や腸、肝臓などが出たままの状態で生まれてきます(図1)。これを臍帯ヘルニアといいます。
図1
臍帯ヘルニアの治療は、手術でお腹の外に出ている臓器をお腹の中に戻し、お腹の壁を閉めることです。手術をする時期についてですが、臓器を包んでいる膜(ヘルニア嚢)が破れていないかぎり、膜を清潔にしておけば生後24時間くらいは手術を待つことができます。おなかの外に出ている臓器が少なければ、1回の手術でお腹の壁を閉めることができます(一期的修復術)。しかし出ている臓器が多い場合や肝臓も出ているような場合は、1回の手術ではお腹の壁を閉めることができないので、何回かに分けて少しづつ臓器をお腹の中に入れ込みます(多期的修復術)。通常は1~2週間でお腹の中に収めることが可能です。
現在、臍帯ヘルニアのほとんどは、胎児超音波検査によって生まれる前に診断されますので、生まれる前にお母さんが新生児科と小児外科の専門医がそろった病院に入院されるのが理想的です。臍帯ヘルニアはその病気の種類や合併奇形のあるなしによって、病気の重さと治療後の結果が大きく違う病気です。お子さまがもしこの病気であると診断されたら、ご両親には、お子さまがお生まれになる前に、新生児科医や小児外科医から、この病気と治療計画について充分な説明を受けられることをお勧めします。
腹壁破裂
赤ちゃんのお臍のわきの腹壁に穴があいているために、本来お腹のなかにあるはずの臓器(小腸・胃など)がお腹の外に飛び出した状態で生まれる病気です(図2)。低出生体重児(未熟児)に発生することが多く、出まれた後すぐに緊急手術をして脱出臓器をお腹の中に戻すか、皮膚または人工膜で脱出臓器を覆わなければ赤ちゃんの命に関わります。
図2
最近は超音波検査により出生前に診断され、手術の準備をしたうえで出産させ、ただちに赤ちゃんの治療を行うことが増えてきたため、救命率は向上しています。この病気の発生頻度は出生2万回に1人ぐらいとまれな病気で、合併する重大な異常は比較的少なく(ときに腸閉鎖などを合併します)、新生児期を乗り切ると予後は良好で、合併症がないと手術によってほとんど問題なく成長できます。
手術の方法は脱出臓器の内容と量・腹腔内容積により、一期的腹壁閉鎖術(一回の手術で脱出臓器を全て腹腔内に戻す)と、多期的手術(段階的に脱出臓器を腹腔内に戻す)に分かれます(図3)。いずれにしても新生児期に厳重な全身管理を必要とするため、経験を積んだ小児外科医とサポートチームによる治療が重要です。
図3
もし出生前診断で赤ちゃんが腹壁破裂と診断された、疑われた場合は、小児外科、新生児科、産科のある施設にお母さんに移っていただいて出産されることが望ましいので、主治医の先生とご相談ください。
頭頚部(あたま・かお・くび)
• くびがはれている
くびが腫れている時
子どもでは様々な病気が、くびが腫れる、くびにしこりがあるといった症状で見つかります。代表的なものとして①くびのリンパ節が腫れる病気(炎症や感染による腫脹、腫瘍)、②胎児期の遺残物が原因でできる先天性の嚢胞・瘻管(正中頚嚢胞、側頚瘻、梨状窩瘻など)、③リンパ管腫、④血管腫などが挙げられます。原因となる病気により治療方針が異なるため、正確に診断し適切な治療を行うことが重要です。
症状
病気により生まれた時から気付かれるものから、幼児期以降に気付かれるもの、大きさに変化がないものから次第に増大したり急速に大きくなったりなど経過は様々です。先天性の嚢胞・瘻管など発生する部位に特徴的なものもあります。感染や内部に出血を合併することで急に大きくなったり、赤く腫れて痛みを伴ったりすることがあります。腫れが大きくなると気道が圧迫されて狭くなり、緊急の処置が必要になる場合があるため、息苦しいなどの症状がある場合はすぐに医療機関に連絡してください。
くびが腫れる代表的な病気
① 頚部リンパ節が腫れる病気
子どものくびが腫れる病気のうちリンパ節が腫れて大きくなっていることが最も多く見られます。1)炎症 2)感染 3)悪性腫瘍などが様々な原因でリンパ節が腫れます。
1) 炎症
口内炎や扁桃腺、上気道炎などの頸部の炎症に反応してリンパ節が腫れるものです。基本的には炎症の原因が治ると次第にリンパ節の腫れもおさまります。
2) 感染
細菌やウイルスがリンパ節に感染して腫れることがあり、赤くなり痛みを伴います。細菌感染では抗生物質による治療が行われますが、急性化膿性リンパ節炎というリンパ節の中に膿が溜まってしまう状態になると、リンパ節を切開して膿を出す必要があります。
3) 悪性腫瘍
頻度は少ないですが、悪性リンパ腫や白血病、他の部位の悪性腫瘍のリンパ節転移でもリンパ節が腫れます。通常、リンパ節の腫れかたが強くて可動性が悪く、複数のリンパ節や他の部位のリンパ節も腫れやすい傾向にあります。悪性腫瘍が疑われる場合は血液検査や画像検査(CT、MRI)などで全身の精査を行い、リンパ節生検といって手術でリンパ節の一部を切除して検査し診断をつけることもあります。治療は原因となっている病気に対し抗がん剤を含む集学的治療が行われます。
4) その他
川崎病やEBウイルス感染症、膠原病などの全身性の病気の症状として頸部のリンパ節が腫れる場合もあります。
② 先天性の頚嚢胞・瘻管
胎児期に身体が形成される際にできる構造物で、通常は生まれた時には消えてなくなってしまうものが消えずに残り、くびに液体の溜まった袋(嚢胞)が形成される病気です。通常は嚢胞だけでなく、嚢胞から瘻管と呼ばれる細い管が連なっており、原因となっている構造物の種類により嚢胞の場所や瘻管の通る経路に特徴があります。普段は嚢胞がしこりとして触れること以外に症状は少ないですが、感染を起こすと赤く腫れて痛みを伴い、膿や分泌物が出てきます。感染を起こした場合は切開して膿を出す、抗生物質を使うなどの治療が必要になります。検査は超音波検査やCT・MRI、造影検査などの画像検査を行います。しこりから連続する細い管(瘻管)が確認できると診断に有用です。代表的な頚部に発症する先天性の嚢胞・瘻管について説明します。
1) 正中頚嚢胞
甲状腺は胎児期に舌の付け根あたりから発生し、舌骨という骨を通って首の気管の前面に降りてきます。この甲状腺が降りてきた通り道を甲状舌管といいますが、甲状舌管が消えずに残ったものを正中頚嚢胞といいます。文字通りくびの正中線上にしこりができるのが特徴的です。 
2) 側頚瘻
胎児期に鰓裂と呼ばれる複数の隆起や陥凹からくびの周りのいろいろな構造物が形成されますが、この鰓裂の遺残物を側頚瘻と言います。第1鰓裂由来のものから第4鰓裂由来のものまでありますが、第2鰓裂由来の側頚瘻が最も多く、くびの胸鎖乳突筋という筋肉の前縁に嚢胞ができ、この嚢胞から瘻管がくびの血管や神経の間を通って口の中の口蓋扁桃と呼ばれる部位までつながっています。
3) 梨状窩瘻
胎児期の鰓囊とよばれる構造物の遺残物からできる嚢胞・瘻管です。くびの左右いずれかの甲状腺の上端あたりにしこりが触れ、瘻管が咽頭の食道の入り口近くにある梨状窩という部位につながっています。内視鏡で梨状窩にある瘻管の開口部を確認することや、造影検査で造影剤を飲むと梨状窩から瘻管に造影剤が入るのが写ることで診断されます。
4) その他
川崎病やEBウイルス感染症、膠原病などの全身性の病気の症状として頸部のリンパ節が腫れる場合もあります。
これらの病気では感染を合併することや癌が発生する場合があることから、診断がついた場合には原則として手術をお勧めしています。感染を起こしている場合は手術の合併症や再発のリスクが増加するため、まずは抗生物質で治療を行い1カ月以上あけて十分に炎症がおさまった頃に手術を行います。 手術は嚢胞の部分だけでなく連続する瘻管をすべて切除する必要があり、瘻管が残ると再発の原因となります。正中頚嚢胞では舌骨の部分切除を含めて甲状舌管をすべて摘出する手術が行われ、Sistrunk(シストランク)手術と呼ばれます。 病気により異なりますが、手術には3日~1週間程度の入院が必要になります。しこりの真上に約4cmの皮膚切開をおいて手術を行いますが、できるかぎり皮膚のしわに沿って傷を作り、術後に傷が目立たないように心がけています。くびから喉元にかけての手術なので術直後は嚥下をすると違和感や痛みがありますが数日で自然におさまります。合併症として傷が化膿することや、わずかに残った瘻管が膨らんで再発することがあります。
③ リンパ管腫
リンパ管の先天的な形成異常により生じるもので、リンパ液の溜まった袋からなる良性腫瘍です。大きな袋からなる嚢胞状リンパ管腫、微細なリンパ腔からなる海綿状リンパ管腫などに分類されます。 全身のいずれの部位にも発生しますが、くびも好発部位で側頚部や顎の下、耳の下などに軟らかい膨らみとして認めます。大きくなると気道や咽頭を圧迫して呼吸困難や嚥下障害が出現することがあります。また、感染や内部に出血を起こすことで、急に大きくなったり痛みを伴ったりすることがあります。診断には超音波検査やCT,MRIなどの画像検査が行われ、リンパ管腫の性状や広がりを正確に評価することが重要です。 治療は小さくて症状のないリンパ管腫は経過観察が可能ですが、周囲の臓器を圧迫して症状を伴うもの、出血や感染を繰り返すもの、大きくて整容性を損なうものなどは治療の対象となります。以前は手術による切除が行われていましたが、侵襲が大きく周囲の組織を傷つけるリスクも高いため、実際に行われることは少なくなってきました。最近では硬化療法という治療が最もよく行われています。これはOK-432という薬剤をリンパ管腫内に注入することで、リンパ管腫内に強い炎症を起こしリンパ液が溜まるスペースを潰してしまうものです。通常、2-3日の入院で行っており、硬化療法後は薬に対する反応で1-2日間は高熱や多少の痛みが起こります。1回の硬化療法では十分に縮小せずに何度か硬化療法を必要とすることが多いですが、身体への負担も少なく良好な治療成績が得られています。 また、最近では越婢加朮湯という漢方の内服がリンパ管腫に効果があることが報告されており、硬化療法が難しいお子さまなどで用いることがあります。
④ 血管腫
新生児や乳幼児に多くみられる毛細血管由来の腫瘍です。全身どこにでもできますが、くびも好発部位の一つです。皮膚に発症すると赤色~紫色のあざとして認められ、見た目から苺状血管腫と呼ばれます。深部の臓器に発生することもあり唾液腺などに発生するとくびが腫れていることで気づかれます。大部分は性質の良い血管腫で出生時から乳幼児期に認められたものが自然に縮小し、5-7歳頃には消えてなくあります。しかし、大きな血管腫では周囲臓器の圧迫や心不全を合併することや、内部で血液を固める血小板を消費してしまうことで出血傾向をきたしてしまう場合も稀にあります。検査は皮膚に発生したものは見た目で診断が可能ですが、深いところに発生したものは超音波検査やエコー、CTなどで診断されます。 治療は多くは自然に縮小するため経過観察が原則ですが、大きく整容性を損なうものではレーザー治療が行われます。また周囲の臓器障害や血小板減少などの問題を合併する場合にはステロイド治療や、血管腫に血液を送る血管の塞栓術、インターフェロンという薬剤の投与、放射線療法などが行われます。最近ではプロプラノロールという高血圧の治療に用いる薬剤が血管腫に有効であることがわかり、治療に用いられるようになっています。
⑤ その他
これらの他にもくびが腫れる病気には耳下腺炎や扁桃周囲膿瘍、咽後膿瘍といった頭頸部の感染症や、がま腫、類皮嚢胞など様々な病気があります。先述の病気と同様に病気や発生部位、大きさにより経過観察でよいものから、手術が必要になるもの、重篤な合併症を起こし緊急での治療が必要となるものなど治療方針が異なります。くびが腫れているという症状に気づかれた場合には一度医療機関でご相談ください。
胸部(むね)
• 嚢胞性肺疾患• 漏斗胸• 気胸• 異物の誤飲• 気管、気管支軟化症
嚢胞性肺疾患とは
嚢胞性肺疾患は、正常の気管支や肺実質とは異なる肺にふくろ状(風船状)の変化(嚢胞)がみられる病気で、生まれつきできる先天性嚢胞性肺疾患と、生まれてからできる後天性嚢胞性肺疾患があります。
• 先天性嚢胞性肺疾患
気管支原性嚢胞、肺分画症、先天性肺気道奇形CPAM(先天性嚢胞状腺腫様奇形CCAM)、気管支性嚢胞、気管支閉鎖症などがあります。
• 後天性嚢胞性肺疾患
青年期に気胸の原因となるブレブ・ブラと呼ばれる病変や繰り返す肺炎(特にぶどう球菌性肺炎)や結核などの炎症、腫瘍、寄生虫などで発生する気瘤という病変が知られています。ブレブ・ブラに関しては気胸の項目にて説明いたします。
診断
 X線写真やCTにて肺の嚢胞を見つけることで診断が始まります。無症状の場合には他の症状で撮った写真等で偶然見つかることもあります。生まれる前に超音波検査で 見つかることもあります。嚢胞性肺疾患のうちどの病気であるかを確定するためにMRI検査や気管支鏡検査を行うことがあります。しかし、最終的な診断は手術によって切り取った嚢胞を顕微鏡で見ることで診断されます(病理診断)。嚢胞性肺疾患ではありませんが一部の悪性腫瘍(肺芽腫等)などで類似した画像所見となるためそれらの鑑別が必要です。
症状
 無症状なことが多いです。嚢胞が大きくなると正常の肺が圧迫されて呼吸がしにくくなります。また、嚢胞のある部分は感染しやすく脆いという特徴があります。嚢胞が感染すると、肺炎による発熱、咳、喀痰、呼吸困難などの症状がみられます。また嚢胞が破れると、気胸による咳、胸痛、呼吸困難などの症状がみられます。
治療
症状のある先天性嚢胞性肺疾患では早期の外科的な治療が必要です。基本的には嚢胞の部分をすべて切除できるように肺の切除範囲を決めます。 無症状の先天性嚢胞の場合、感染を繰り返す可能性と嚢胞をきたすタイプの悪性腫瘍との鑑別を考えて、予防的に切除することが多いです。 当科では無症状の先天性嚢胞性肺疾患で悪性腫瘍を疑う所見が少ないものを中心に胸腔鏡手術での肺切除を行っています。胸腔胸手術の場合には開胸手術に比べ傷が小さく目立ちにくいという利点があります。また、成長後の胸郭の変形が少ないことも知られています。 肺炎に伴う後天性の肺嚢胞では原則として外科治療は必要ありませんが,嚢胞の中に細菌等の塊ができてしまい膿胸を来たす場合等には手術が必要なこともあります。
手術方法
 肺は右側が3つの部分(上葉、中葉、下葉)、左側が2つの部分(上葉、中下葉)に別れ、そのそれぞれが更に細かく、右が10区域、左が8区域に分かれます。嚢胞がどの部位に含まれるかによって切除範囲が変わります。多くの場合一つの葉に限局するので葉切除や区域切除で足りますが、複数の葉にまたがる場合や両側にある場合等には肺の機能に応じて大きくとることもあります。肺には血液の通り道である血管(動脈・静脈)が心臓とつながっており、空気の通り道である気管支が気管を介して喉頭(のど)とつながっています。切除する葉や区域に向かうこれらの3本の管をそれぞれ切り離し、肺同士や胸郭とくっついている部分をはずすことで病変を含んだ肺を取り出します。
合併症
• 出血
すぐに心臓へとつながる重要な血管が肺にはつながっています。損傷してしまった場合には大出血となります。輸血や、胸腔鏡手術の場合には開胸手術への移行が必要な事があります。
• 気胸・気瘻
切り離した肺の断端や気管支の断端から空気がもれることがあります。胸腔内に入れた管から空気を吸い出すことで改善することが多いですが再手術が必要になることもあります。
• 感染
創部や胸腔内等に細菌等が侵入し創部感染や膿胸を来たすことがあります。手術後に痰を出す力が弱くなり肺炎を来たすこともあります。
• 胸郭の変形
特に開胸手術を行った場合、成長に伴い胸郭が変形する可能性があります。当院では胸郭の変形の少ない胸腔鏡手術を積極的に取り入れております。
漏斗胸とは
前胸部が陥凹する病気で、胸の形が変形する病気で最も多いものです。その凹み方は人によってそれぞれです。深く凹んでいる人もいれば浅い人もいます。左右で非対称になる場合もあります。原因はまだはっきりとはわかっていません。多くは乳・幼児期から指摘されることが多く、成長に伴って陥凹が進行し、小学生・中学生になってから気付く方もいます。経過中に自然に治る例は少ないです。男児に多く、親子でみられる場合もあります。
症状
 多くの場合は無症状であり問題ありませんが、胸が凹むという美容上の問題などによりいじめやコンプレックスなどで悩むことも多いです。 重度の陥凹では内臓(心臓・肺・気管など)を圧迫されることによる症状が出る場合があります。例えば喘息のような症状や胸の圧迫感、風邪をひいたときに咳が長引きやすいこと、疲れやすい、息が上がる、運動についていけない、胸が痛いなど訴えた場合には上記による症状が疑われます。
治療
 治療は美容上の問題、もしくは上記に示すような内臓を圧迫されたことによる症状を呈する場合に検討します。 治療には(手術を行わない)保存的治療と手術治療があります。 保存的治療では特別な機器を用いて陥凹部に持続的に陰圧をかけ、陥凹部を持ち上げるものがあります。軽度の方に行います。 手術治療には変形の具合や形によって選択する方法は違いますが、変形した肋軟骨を切除する方法や陥凹した胸骨を翻転する方法、Nuss法という細長い金属の板を用いて陥凹した胸骨を体の中から押し上げる方法があります(図1)。
図1
手術方法
現在、漏斗胸に対する治療法の主流になっているNuss法について説明させていただきます。手術の時期としては6-10歳に行われることが多いです。これは成長により板の位置がずれてしまうことや、肋骨や胸骨、脊椎で囲まれている胸郭の柔軟性からこの時期に行われることが一般的とされています。思春期を超えると胸骨や肋骨が硬くなること、非対称性変形が多くなること、陥凹の範囲が広くなることなどから手術はより難しくなるとされています。 手術では胸腔鏡を用いて金属の板を入れる経路を確認しながらできるだけ安全に行うようにしています。金属の板は体の大きさや陥凹の具合により1-2本を挿入します。挿入した板は2-3年後を目安に抜去します。
合併症
私たちは安全第一に手術を行っていますが、合併症はゼロではありません。今まで当科では経験したことが無い合併症も含めて、一般的な手術のリスクとしては、以下のものが知られています。
• 疼痛
術後に痛みどめ薬(鎮痛薬)を用いることにより、できる限り本人のストレスにならないよう心がけます
• 術後感染
体内に金属を留置するため、感染には注意が必要です。もし感染した場合には抜去しなければならないことがあります。
金属の板のずれ
術中の固定をしっかりすることによりできる限り回避するように心がけています。しかし、ずれにより再陥凹が認められる場合には再固定を行う場合があります。
• 術後血胸
手術後しばらく経ってから起こることがあります。術後何かしらの強い衝撃があった場合に多く、突然、腰が痛くなったり、呼吸が苦しくなったりした時はすぐにご連絡ください。
手術後しばらく経ってから起こることがあります。術後何かしらの強い衝撃があった場合に多く、突然、腰が痛くなったり、呼吸が苦しくなったりした時はすぐにご連絡ください。
気胸とは
 気胸とは肺と胸壁(肋骨や胸骨、横隔膜などを含む構造)の間にある胸腔という空間に空気が貯留した状態です(図1)。原因により以下の3つに分けられています。
• 自然気胸
生まれた直後に発症するものと学童期以後に発症するものがあります。 生まれた直後のものはX線写真で偶然発見されることが多く、無症状で治療の必要がないものが多いです。 学童期以降のものは、血液と酸素や二酸化炭素の交換を行う肺胞という構造が、何らかの理由で空気が溜まって風船のように膨らみ、これが破裂することにより発症します。
• 外傷性気胸
交通事故などによる強い衝撃で肺や気管が損傷することにより発症します。
• 医原性気胸
治療による合併症のため発症するものです。
症状
肺でのガス交換がうまくいかないことにより呼吸が早くなったり、呼吸の際に肋骨の間が凹んだり、顔色や唇の色が悪くなるなどの症状が出ます。 学童期に発症する自然気胸は身長が高く痩せた男児に発症することが多いです。症状としては突然胸を痛み、咳が出る、呼吸が苦しいなどと訴えます。
治療
呼吸の症状が軽い場合や、胸腔内の空気が少ない場合には安静のみで自然に吸収されます。 治療が必要と判断された場合には、①針などを刺して空気を外に出すか、②チューブを胸腔内に留置して持続的に空気を出します。②の治療を行っても良くならないものや、再発したものや、両側に気胸を発症したものなどに関しては手術を検討することになります。
➢ 手術方法
気胸に対する手術は空気の漏れている部分を縫い閉じる方法と部分的に肺を切除する方法があります。当科ではこれらの手術にも積極的に胸腔鏡での治療を行っています。手術後は呼吸状態や疼痛などにもよりますが数日で退院が可能なことが多いです。
合併症
 私たちは安全第一に手術を行っていますが、合併症はゼロではありません。今まで当科では経験したことが無い合併症も含めて、一般的な手術のリスクとして知られているものをご説明致します。 手術の合併症としては出血、傷や胸腔内の感染が最も多いです。また手術中に操作のスペースを確保するために二酸化炭素ガスで肺を圧排するため、肺の含気が悪くなることや高二酸化炭素血症(血液中の二酸化炭素濃度が高くなること)を発症することがあります。
異物誤飲について
食べ物以外のものを誤って口から飲み込んでしまうことを誤飲といいます。手元にあるものは何でも飲み込んでしまうと考えて普段から予防することが重要です。 誤飲するものは硬貨やたばこが多く、玩具、ボタン電池、薬のシート、医薬品、化粧品、洗剤などがあります.特にボタン電池については、とどまったところで放電し穴が開いてしまうことがあるため、すぐに取り出す必要があります。
● 症状
異物がある位置によってさまざまな症状が出てきます。 異物が気管にある場合は咳や窒息、呼吸困難がおきます。食道にある場合は咳が出たり、よだれが垂れたり、飲み込みにくかったりする症状がみられることがあります。リチウム電池が食道で停滞すると食道と気管の交通ができることもあります(最短30分程度で食道の壁が壊死したという報告もあります)。
● 治療
 食道にある異物はすぐにとる必要があります。胃や小腸にある異物は、自然に便として排泄されることを待ちますが、飲み込んだものがボタン電池や磁石、鋭利なものなどの場合は手術で摘出する場合もあります。十二指腸に流れた異物は,1日前後で排泄されます。腸の中で膨らむものを飲み込んでしまった場合、腸閉塞の症状が出てきますので手術が必要です。 気管にある異物は、全身麻酔下に気管支鏡を使ってとる必要があります。場合によって胸を開ける手術が必要になる場合もあります。 飲み込んだものによっては、重い障害がおこることもあるため、家庭での予防が最も重要です。普段から子どもの周囲には飲み込む可能性があるものは置かないように配慮してください。
気管・気管支軟化症とは
気管・気管支軟化症は、呼吸時に気管や気管支の断面が扁平となり、内腔が狭くなり呼吸がしづらくなる病気です。やわらかいストローで勢いよく吸い込んだときにストローがつぶれてそれ以上吸えなくなる状況を想像してみてください。原因は気管支の近くにある大きな血管(大動脈)による圧迫や、気管の壁の中の軟骨がもろく弱いことなどです。小さく生まれた赤ちゃんや先天性食道閉鎖症の子などに気管軟化症が多いことが知られています。
症状
主な症状は、犬が吠えるような咳(犬吠様咳嗽)で、泣いた時やミルクを飲む時にのどがゴロゴロ鳴ったりします。肺炎を繰り返すこともあります。多くの場合は生まれた後1ヶ月以降から進行する呼吸の症状が現れ、気管支鏡検査等で診断されます。最重症のタイプでは窒息してしまうこともあります。
治療
 治療は理学療法や 感染対策などの内科的な治療を行います。多くは2歳頃までに症状が徐々に改善します。しかし、窒息の危険が強い場合や,そのために人工呼吸器の助けが長期にわたって必要なときは手術による治療を行うことがあります。
➢ 手術方法
血管等の圧迫が原因の場合には、圧迫している大動脈を前方に引っ張って気管の内腔を広げる大動脈胸骨固定術が行われます。気管支の一部が弱いため起こっている場合には、弱くなっている気管支を切り取って気管とつなぎ合わせる方法や気管支の外側をステントという強度のある円筒で支える方法、あるいは内視鏡を使って気管内にステントを挿入する方法があります。多くの場合は2歳ごろまでに改善していくので一時的に気管切開をおき窒息してしまうリスクを減らし成長を待つこともあります。
腹部(おなか・おしり)
• 臍ヘルニア(でべそ)• 腸重積• 急性虫垂炎• 肥厚性幽門狭窄症• 胃食道逆流症• 腸回転異常症• ヒルシュスプルング病• 鎖肛・直腸肛門奇形• 便秘症• 胆道閉鎖症• 先天性胆道拡張症• メッケル憩室• 肛門周囲膿瘍• 鼡径ヘルニア• 炎症性腸疾患• 腹部外傷
臍ヘルニア(でべそ)とは
臍ヘルニア(でべそ)と呼ばれる先天的な病態のことで、新生児の20-30%程度にみられます。へその緒でお母さんの胎盤とつながっていた部分の腹筋の膜が出まれた後に閉じなかった場合に、筋肉の膜の穴を通して腸管が皮膚の下に脱出して、おへその膨隆として現れます。生後2-3週頃に膨隆は最大となり、その後徐々に縮小していき、1歳までに80%が2歳まで90%ほどが自然治癒するといわれています。
症状
泣いたりして大きく膨れるときには、痛そうに見えることもありますが大きく膨れても痛みや症状はありません。痛がる、赤く腫れる、膿や滲出液が出るなどの症状がある場合には他の病気の可能性があります。おへそに症状があるときには医療機関を受診するようにしましょう。
治療
生まれた後すぐにおへその膨らみが大きい赤ちゃんに対しては圧迫療法を行う場合があります。余剰な皮膚が大きくなるのを予防する目的です。生まれた直後から2-3ヶ月圧迫を継続して膨隆が落ち着いたのを確認して終了します。 2歳を過ぎてもおへその膨らみが継続する場合には、腹筋の膜を閉鎖する目的で臍ヘルニア(でべそ)根治術という手術を行います。また生後おへその膨らみが縮小して自然に腹筋の膜が閉鎖しても、赤ちゃんのときに大きく膨隆していた場合に余剰な皮膚が多くおへその陥凹が得られないことがあります。このような場合多くの例で小さな筋肉の膜の欠損が残存していることがあり、見た目に皮膚の余剰があるときにも整容的な面も含めて手術をすることもあります。
➢ 手術方法
一般的におへその縁の下1/3周の皮膚切開から手術を行い、欠損している腹筋の膜を糸でしばって閉鎖し、おへその形がくぼむように皮膚を縫って終了します。おへその大きさにより、手術方法や皮膚切開の大きさ・形は変わりますが、およそ30分から1時間程度の手術となります。手術は全例全身麻酔をかけて行います。
合併症
おへそは陥凹しているため、手術後に傷の治りが悪くジュクジュクした状態が続くことが稀にありますが、大きな合併症が起きることはほとんどありません。
腸重積とは
 生まれた後6ヶ月ぐらいから1歳までの離乳期の元気な赤ちゃんが急にぐったりし、顔から血の気が引き、便にねっとりとした粘液が混じった血液が認めるようになる病気です。時に6歳ぐらいまでの子どもにも同じような症状が認められることがあります。この場合は大急ぎで診断し治療しなければなりません。 子どもの頃に起こる典型的な腸重積症は小腸の終りの部分が、その蠕動運動によって大腸に入り込んで起きてしまう病気です(図1)。原因としては、小腸の終わりの部分に多く分布するリンパ組織が、風邪等の原因で腫れて大きくなり、この部分に過剰な蠕動運動が加わって、大腸に入りこんでいくと考えられています。 また、小腸ポリープ等が原因となったり、成人では大腸癌等が原因となったりして起こる事があります。男児の方が女児より2倍くらい多く発生するといわれています。
症状
 腸重積が起きると、大腸と小腸が超満員電車の中にいるような状態になり、腸重積が起った部分で生きていくために必要な血液が動けなくなります。次に、細い血管が破れて血液が腸の中に出てしまうので、便に赤い血液が混じるようになります。腸重積が起きると、腸の内容液が正常に肛門側に移動できなくなるため、吐くなどの消化器症状が現れます。また、5〜30分おきに腹痛あるいは腹痛があるかのように不機嫌になり、泣き叫び、顔から血の気がひきます。さらに、腸重積を起こした部分の腸は生きるために必要な血液が徐々に不足していくため、最悪の場合には、腸が腐ってしまいます(壊死の状態)。このような腸の状態になる前に腸重積を診断し、治療を急がなければなりません。
診断
図1
 専門の医師が診察した場合、お腹の外から大きな塊を触ることができることがあります。また、超音波検査(図2)を使って、腸重積を起こした部分を見つけ、造影検査で診断することが出来ます。上の説明のように、ご両親が「いつもと様子がおかしいな?」と思われた場合には、すぐに医療機関を受診されることをお勧めします。
図2
治療
 腸重積にかかったと思われる時間から24時間以内に専門の病院を受診された赤ちゃんの約8割は造影剤を肛門から注入し、圧を加えることにより腸重積を元の正常な状態(これを整復といいます)に戻すことが出来ます。また造影剤の代わりに空気を肛門から注入して、整復を試みる施設もあります。しかし、2割前後の赤ちゃんは整復ができないため手術により腸重積を整復することになりますが、腸重積を起こした腸の組織に血液が流れない状態が長く続き、腐ってしまった場合には腸を切り取らなければなりません。
➢ 手術方法
 手術は全身麻酔を使って眠った状態で行ないます。各病院によって手術方法は異なりますが、大きくわけると腹腔鏡を使って行なう場合とそうでない場合があります。どちらの方法でも、腸重積が起こっている部分を、外科医が元の状態に戻します。万が一、腸が腐っていた場合には、腐った部分を切り取ります。腐った程度が大きく、腹膜炎を起こしていた場合には、お腹の中を入念に洗います。
予後
 腸重積を整復した後に、絶食・入院加療を勧められますが、これは腸重積を起こした腸の回復と再発予防のためです。再発は約10%に見られますので、病気が起きた時の赤ちゃんの症状を覚えておくことが重要です。
虫垂炎とは
幼児期から学童期の子どもの腹痛を起こす原因の中で、手術が必要となる病気としては最も頻度が高いのが虫垂炎です。一般的に、「盲腸」と言われていますが、実際には盲腸の先端にある虫垂突起(図1)とよばれる小さな袋状の突起物が、感染、炎症を起こす病気です。虫垂は細長い形状のため何らかの原因で内腔が閉塞して内圧の上昇や血流障害、細菌の侵入を引き起こし、虫垂炎を発症すると言われています。 虫垂炎の初期であれば炎症は虫垂粘膜に限局していますが(カタル性虫垂炎)、進行すると次第に外側へ炎症が広がり(蜂窩織炎性虫垂炎)、さらに虫垂の壁に穴が開いて内容物が漏れ出し(壊疽性穿孔性虫垂炎)となり、周囲に膿のたまりができたり(膿瘍形成性虫垂炎)、炎症がお腹全体に広がって(汎発性腹膜炎)しまったりすることがあります。
症状
急性虫垂炎の症状としては右下腹部痛が代表的で、その他に、発熱、嘔吐、下痢などの症状が出る場合があります。最初は、みぞおちやお臍の周りが痛くなり、徐々に右の下腹部に痛みが移動していくのが典型的ですが、様々な部位の腹痛や腹部症状として発症する場合があります。 小さな子どもの場合は、痛みを正確に伝えられず、診断が遅れてしまうことも少なくありません。子どもの場合は、虫垂の壁が薄いので、治療が遅れると、虫垂が破れ(穿孔)てお腹全体に炎症が広がり重篤になりやすいのです。上記のような症状がある際は医療機関を受診してください。
検査
血液検査では虫垂炎以外の感染症と同様に白血球などの炎症反応の上昇を認めます。 画像検査で腫れた虫垂を確認することで虫垂炎と診断されます。小児では通常、腹部超音波検査で診断されますが、超音波検査で虫垂を見つけられない場合に造影CTが行われます。
治療
虫垂炎に対する治療としては大きく分けて①抗生物質による保存的治療と②手術治療があります。
① 保存的治療
1日3回程度、抗生物質を点滴で投与します。虫垂炎の程度にもよりますが、1週間前後の入院が必要になります。軽症の虫垂炎の場合は、内服の抗生物質で外来通院での治療が可能なこともあります。保存的治療は手術に伴う合併症を回避でき、身体に傷を残さないというメリットがありますが、一方で約1/4の方は虫垂炎が治った後に再発してしまうことがわかっています。
手術治療
虫垂切除術という手術で、虫垂炎の原因となっている虫垂を切除します。そのため、保存的治療のように再発を起こすことはありません。手術に伴う合併症が起きる場合がありますが、重症な合併症が起きることは稀です。詳細は下の「手術方法」をご参照ください。

ほとんどの虫垂炎では保存的治療と手術治療のいずれでも治すことが可能です。しかし、保存的治療での再発のリスクがあるため、蜂窩織炎性虫垂炎以上の比較的進んだ虫垂炎や、繰り返し再発するような虫垂炎の患者さんでは手術治療を選択することが多いです。 また、最近では一旦抗生物質を投与する保存的治療を行い虫垂炎を抑えた後で、虫垂炎が再発しないように3-4か月後に予防的に手術をする待機的虫垂切除術も行っています。特に、膿瘍を作ってしまったような虫垂炎では急性期に緊急手術は合併症のリスクが高くなるため、待機的虫垂切除術が選択される場合が多いです。
➢ 手術方法
手術治療について詳しく説明します。手術は虫垂切除術といい、原因となっている虫垂を切除する手術です。虫垂炎では炎症のため周囲の組織と癒着していることが多いため、癒着を剥がし、虫垂に向かう血管を切離した後に虫垂を根元で糸で結び切除します。お腹の中に虫垂の内容物が漏れ出したり、膿のたまりができていたりする場合は十分にお腹の中を洗います。虫垂を切除することによる腸管機能や成長への影響はありません。 従来は虫垂がある右下腹部の皮膚を5-6 cm程度切って虫垂を切除する開腹手術が行われていましたが、近年では1-2cmの小さな傷からカメラや鉗子を入れて手術する腹腔鏡手術が一般的となっています。もともとの腹腔鏡手術は2-3か所の傷が必要でしたが(多孔式)、当科では、お臍の傷だけで手術をする単孔式腹腔鏡手術も行っており、虫垂炎に対しても傷をほとんど残さず治すことが可能です(図2)。身体への負担が少なく、傷が目立たないだけでなく、手術後の痛みや傷の感染を減らすことができます。 ただし、虫垂炎が進行して腹膜炎になっている際は、単孔式の手術が困難な場合もありますので、安全を最優先に考慮し、必要であれば5−10mm程度の傷を追加し、内視鏡用の鉗子を追加する場合もあります。 術後は腸の動きが回復するのを待って飲水や食事を開始します。早ければ手術の翌日から食事を開始し、術後3日ぐらいで退院が可能です。お腹の中の感染が強かった場合はお腹の中の感染がおさまるまで抗生物質の点滴を行う必要があるので、術後1週間以上の入院が必要になることがあります。
合併症
私たちは安全第一に手術を行っていますが、合併症はゼロではありません。今まで当科では経験したことがない合併症も含めて、一般的な手術のリスクとしては、以下のものが知られています。
• 出血
出血は通常少量で、輸血が必要になることはありません。
• 副損傷
炎症が強い症例で周囲の腸管などを傷つけてしまうことがあります。術中に気付かれれば修復しますが、術後に症状が出て気付かれ再手術が必要になることもあります。
• 創感染
傷が膿んでしまうことを言います。傷の洗浄などで自然に治癒することがほとんどです。
• 腹腔内膿瘍
お腹の中でくすぶっていた感染が再燃して、膿のたまり(膿瘍)が再びできてしまう状態です。術後の抗生物質の点滴を継続して治ることもあれば、膿瘍を針で刺して膿をお腹の外に出す処置が必要になることがあります。
• 糞瘻
盲腸から虫垂を切り取った切り口の糸がほころんで、腸液がもれでてしまいます。再手術が必要になることが多いですが、実際に起こるのは非常に稀です。
• 腸閉塞
術後、腸同士や周囲の組織が癒着するため食べ物の通りが悪くなり、腸閉塞が出現することがあります。術後早期に起こることもあれば、何年もしてから始めて発症することもあります。嘔吐や腹痛などの症状が出た場合は早めに病院を受診することが大切です。
肥厚性幽門狭窄症とは
生まれた後2-3週から3ヶ月位までの赤ちゃんがミルクを吐く病気です。胃の出口にある幽門筋が肥厚するために胃の出口が狭くなり、飲んだミルクが十二指腸に運ばれず胃内に停滞します。
症状
ミルクで胃がいっぱいになると飲んだミルクを噴水状に大量に吐きますが、吐いた後でも赤ちゃんは空腹感のためにさらにミルクを欲しがります。治療の開始が遅れると、大量の嘔吐による脱水がすすみ活気がなくなります。
診断
診断は主に超音波検査で行い、幽門筋の肥厚を確認します。
治療
まずは、点滴で脱水を治します。その後は、硫酸アトロピンというお薬を点滴することで、幽門筋を弛緩させる保存的治療と、手術により幽門筋を切開する手術療法があります。 手術は開腹手術と、腹腔鏡手術があり、いずれの方法でも幽門筋を切り広げる方法が用いられています(ラムステッド手術)。保存的治療では、退院まで2週間程度かかるのに対し、手術治療では手術後3日程度で退院が可能です。また、保存的治療のみでは改善せずに手術を行うこともあります。
胃食道逆流とは
胃から食道への胃内容物の逆流を胃食道逆流(gastroesophageal reflux: GER)といいます。それ自体はゲップの際にもみられる生理現症の一つですが、頻度が高く逆流時間が長いと、様々な病的な症状を来すことがあり、胃食道逆流症(gastrointestinal reflux disease: GERD)といいます。胃に近い場所の食道の括約筋の働きがよくないことや、食道の動きがよくないこと等が原因で起こると現時点では考えられています。
症状
胃内容物が口まで逆流すれば嘔吐します。逆流した胃内容物を誤って肺に吸い込んでしまうと、頑固な咳が続いたり、呼吸がゼイゼイしたり、肺炎などの呼吸器感染を繰り返したりすることがあります。強酸性の胃酸が食道に逆流するために、食道粘膜が炎症(食道炎)を来し、吐血・下血・胸やけなどの症状がでることもあります。食道炎が長期化すれば、Barrett食道といって食道粘膜が組織学的に変化することがあり、さらに放置すれば将来そこから癌が発生することもあります。また哺乳不良・体重増加不良・不機嫌・活気がないなどの、非特異的な症状でみつかることもあります。
治療
生まれたばかりの赤ちゃんは食道を含め消化管機能が未熟なため、胃食道逆流を来しやすい状態です。成長を待つことで徐々に改善することが期待できます。月齢3か月児では、1日一回以上嘔吐するのは3人に1人の頻度である一方、満1歳児では20人に1人の頻度にまで減るという報告もあります。 GERD症状(肺炎の反復や体重増加不良など)により本人の生活に不都合が生じている場合には、まずは診察・検査などで原因となる他の病気を否定した上で、治療を開始します。第一に生活指導として①少量頻回の授乳、②特殊ミルク(アレルギーミルクや粘調なミルク)の使用、③ミルク摂取後のゲップ励行、④食直後の臥床禁止・頭部挙上体位の励行、④便秘があればその治療、⑤肥満があればダイエットなどを行います。次に薬物療法として胃酸を抑えるお薬や消化管運動をよくするお薬を投与します。これらすべての治療で改善しない場合に手術を検討します。
➢ 手術方法
噴門形成術といって、胃からの逆流を予防する手術を行います。複数の手術方法がありますが、Nissen噴門形成術が一般的です。胃の一部を食道の周囲に巻き付けて、食べ物で胃が膨らむと、食道周囲に巻き付けた部分の胃も膨らむことで、食道を圧迫して胃からの逆流を防ぐものです。当科では腹腔鏡を用いた手術を第一選択としていますが、それぞれのお子さまの全身状態や臓器の位置関係などの解剖学的条件を考慮し、開腹で行う場合もあります。
合併症
手術の効果の副作用として術後にゲップが出しにくくなったり、お腹にガスが溜まりやすくなったりすることがあります。胃の容積が小さくなることで、ダンピング症候群といって食事直後に腹痛や下痢を来したり、しばらくして低血糖になって冷や汗をかくなどといった症状が出たりすることがあります。 その他、一般的なお腹の手術のリスクとしては、以下のものが知られています。
• 出血
• 副損傷
周りの臓器を損傷してしまうことがあります
• 創感染
傷が膿んでしまうことを言います。傷の洗浄などで自然に治癒することがほとんどです。
• 腸閉塞
術後、腸同士や周囲の組織が癒着するため食べ物の通りが悪くなり、腸閉塞が出現することがあります。術後早期に起こることもあれば、何年もしてから始めて発症することもあります。嘔吐や腹痛などの症状が出た場合は早めに病院を受診することが大切です。
腸回転異常症とは
 お母さんのお腹の中で赤ちゃんが成長する過程で、長い腸管をお腹の中にうまく納めるために、腸管の回転と固定が行われます。図1のように、胎生8週頃に小腸と大腸の一部が臍帯(へその緒)内に脱出し、成長した後、胎生12週頃までにお腹の中に戻ってきます。この戻る過程で、十二指腸はお腹のいちばん深い背中側に固定され、大腸は大きな円を描くように口側が右側、肛門側が左側のお腹の壁に固定されます。そして、十二指腸と大腸の間の小腸は、左上から右下に斜めに走るようにおさまります。一方、腸管の回転と固定が不十分だと、図2のように、腸管の配置が正常とは異なります。さらに、大腸と右側のお腹の壁の間に線維性の膜(Ladd靭帯)が形成され、十二指腸が圧迫され、嘔吐などの原因となります。また、本来お腹の中で固定されているべき腸管が固定されていないため、腸管が突然捻じれて腸管の血行が悪くなることがあります(中腸軸捻転)。このまま放置すると、腸管が壊死してしまう危険性があります。腸管が広汎に壊死に陥ってしまった場合、大量に腸管を切除しなければならなくなり、消化吸収に障害がでる短腸症候群となる可能性があります。
図1
図2
症状
約70~80%の患者さんは生まれてから1か月以内に発症し、急にミルクが飲めなくなったり、激しく吐いたりします。さらに症状が進むと、お腹が張ってきたり、腸管の血行が悪くなって血便が出たりすることもあります。また、乳児の間は無症状であっても、年長児となってから腹痛や嘔吐を繰り返し、ご病気が見つかることもあります。
治療
症状が急激で、全身状態が悪い場合には、緊急手術が必要となります。状態が落ち着いている場合には、造影検査、腹部超音波検査、腹部CTなどを行って診断を確実にしたうえで開腹手術を行います。
➢ 手術方法
 一般的にLadd手術と呼ばれる手術を行います。お腹を開いて、腸管が捻れている(軸捻転)場合にはそれを元に戻し、扇形の根本で圧迫している膜(Ladd靭帯)を切除します。腸とそれを栄養している血管が通る膜(腸間膜)を十分に拡げて腸を並べ直し、お腹を閉じます。腸管が壊死している場合には、その部分を切除して腸管をつなぐ必要があります。
合併症
私たちは安全第一に手術を行っていますが、合併症はゼロではありません。今まで当科では経験したことがない合併症も含めて、一般的なリスクとしては、以下のものが知られています。
• 創感染
傷が膿んでしまう
• 癒着による腸閉塞
術後に腸管が別の腸管や壁とくっつき、腸の流れが悪くなる
• 中腸軸捻転の再発
固定の悪い部分が再度捻れてしまう
• 中腸軸捻転の再発
固定の悪い部分が再度捻れてしまう
• 縫合不全
腸管をつないだ部分がくっつかず、腸液がお腹の中に漏れる
• 短腸症候群
大量に腸管を切除した場合、栄養の消化吸収障害が起こる
~ちょうねんてんのお話~「ちょうねんてん」って…なんやねん!!
ちょうねんてんという病気を、お子様でもわかりやすいように説明したビデオです。
ヒルシュスプルング病とは
腸管運動を支配する神経叢が、肛門から連続する一部の領域の腸管で存在しない病気です。赤ちゃんがお母さんのお腹の中にいる時に、食道から肛門方向へ神経細胞が分布していくと考えられており、何らかの原因でその神経細胞の分布が途中で停止する為に起こるされています。生まれてくる赤ちゃん5000人に一人の割合で発生し、男女比3:1で男児に多い病気です。RET遺伝子という遺伝子の異常が原因の一つと考えられていますが、家族性の発生率は全体の3%程度と多くありません。遺伝子異常に加えて環境因子や社会的要因など多数の因子が関与して起きると考えられています。 診断はまずは問診と身体診察・腹部X線検査をした後に、注腸検査(図1)をします。肛門から造影剤を注入してX線で腸の形や動きをみる検査です。注腸検査でヒルシュスプルング病が疑わしい際は、直腸肛門内圧検査をします。肛門から風船のついた軟らかい管を入れて、直腸で風船を膨らませて腸管を刺激した際に肛門管が正常に反応するかを調べる検査です。さらには直腸粘膜生検といって、直腸の粘膜の一部を採取し、顕微鏡で観察して診断を確定します。
図1
症状
腸管運動を支配する神経叢がないため、便秘/排便障害や嘔吐、腹部膨満が主な症状となります。この病気の90%のお子さんは生まれてから初めての便がでるまでに正常よりも時間がかかります(胎便排泄遅延)。全体の約50%は生後1ヶ月以内に診断されますが、10%は軽い便秘で見過ごされ1歳以降になって診断されることもあります。また便が留まることで感染を合併しやすく、短期間で大腸炎を来し、そこから血液に細菌が入り込み、敗血症という重篤な状態に陥ることもあります(中毒性巨大結腸症)。
治療
治療法は基本的には手術しかありません。多くの場合、浣腸や肛門ブジーで排便を促し、体重が5kgなど一定の基準まで大きくなるのを待って手術をします。上手く排便が得られない場合には、まず人工肛門を作ってそこから便を出せるようにした上で、成長を待つ必要があることもあります。
➢ 手術方法
神経のない腸管を切除して、口側の正常な腸管を肛門につなぐ手術をします。当科では積極的に腹腔鏡で手術を行っています。切除する腸管の長さなどそれぞれの病態に合わせて、肛門から手術を行ったり、開腹して手術をしたりすることもあります。
合併症
術後の一般的な長期合併症としては、便秘・便失禁・術後腸炎が知られています。
• 便秘
術後に腸が狭くなったり、神経のない腸管が残っていたりすると、排便しにくいため便秘となります。また、新たに腸の蠕動が悪くなることもあります。排便を我慢してしまう生活習慣なども原因となります。多くの場合、時間経過とともに改善します。
• 下痢・便失禁
術後すぐの頃は下痢と便失禁がよく見られますが、多くの場合は成長とともに改善します。術後15年程度経過した時点で、下着が汚れる程度の失禁がたまにあるのは42%、頻繁にあるのは12%という報告があります。
• ヒルシュスプルング病関連腸炎
術前にも術後にも起こることがありますが、特に術後一年以内に多くみられます。便の停滞と感染防御の役割を果たすムチンという腸管粘液の産生が減少することにより、腸内細菌のバランスが崩れることで起こると考えられています。細菌の過剰な増殖が起こり、それが腸管粘膜から腸管壁内に進入し、腸炎を来します。嘔吐・下痢・血便などの腸炎症状を来し、時には腸管穿孔・腹膜炎・敗血症から死に至ることもあります。抗生物質の投与と洗腸で治療します。
その他、一般的なお腹の手術のリスクとして、以下のものが知られています。
• 出血
• 副損傷
周りの臓器を損傷してしまうことがあります。
• 創感染
傷が膿んでしまうことを言います。傷の洗浄などで自然に治癒することがほとんどです。
• 腸閉塞
術後、腸同士や周囲の組織が癒着するため食べ物の通りが悪くなり、腸閉塞が出現することがあります。術後早期に起こることもあれば、何年もしてから始めて発症することもあります。嘔吐や腹痛などの症状が出た場合は早めに病院を受診することが大切です。
ヒルシュスプルング病のお話 ―どうして うんちが でないんだ!?―
ヒルシュスプルング病という病気を、お子様でもわかりやすいように説明したビデオです。
直腸肛門奇形(鎖肛)とは
直腸肛門奇形(鎖肛)とは、直腸及び肛門がうまく形成されなかった病気です。おしりに全く肛門が形成されていないもの、小さな穴(瘻孔)が形成されているもの、肛門の位置がずれているものなどがあり、正常な位置に肛門が形成されていません。5000人に1人の割合で発症する、赤ちゃんの外科疾患の中で最も多い病気です。胎児期の初期には、直腸や肛門は尿路とつながってひとつの腔(総排泄腔)になっています。それが、妊娠の2か月半頃までに直腸・肛門と尿路に分離します。女児では、分離した後に直腸と尿路の間に膣や子宮が下りてきます(図1)。直腸肛門奇形(鎖肛)は、この発生途中の異常により起きる病気です。
症状
正常な位置に肛門が形成されていないので、おしりを診ただけでわかることが多く、生まれた直後に診断されることが多いです。出生前診断されることもまれにありますが、たいていの場合は生まれた後に診断されます。しかし、気付かずにミルクを飲んだ後に、おなかがはったり、吐いたりしてから診断されることもあります。直腸と尿路や膣が繋がっている場合(瘻孔)があり、男児では尿に便が混じったり(図2)、女児では膣から便が出たりすることがあります。また、幼児期に便秘の治療中に、肛門の位置がずれている事に気づかれて診断されることもあります。
病型
男児の場合は陰嚢に、女児の場合は膣の入り口の近くに瘻孔がある場合は診ただけで診断できる場合が多いです(低位型)。しかし、診ただけでは診断できない場合は、X線検査や超音波検査で、直腸盲端の位置を評価します。その高さにより、高位型、中間位型、低位型の3つの病型に分類します。この高さは直腸盲端が排便機能に関わる筋肉(恥骨直腸筋)に届いているかどうかの目安になり(図3)、将来的な排便機能において重要になります。次に、造影検査により、直腸や尿路や膣との繋がり(瘻孔)の有無・位置を評価します。このように病型を判断して、赤ちゃんの治療方針を決定します。
治療
低位型:病型によりますが、新生児期に肛門を造る手術(根治手術)を行う場合も多くあります。生まれた直後や数日以内に行われることも多いです。女児に多い、膣に接して瘻孔が開口している病型の場合(肛門膣前庭瘻)は、瘻孔をヘガールブジーという金属性の器具で拡げて、排便できるようにします。その後、乳児になって赤ちゃんの体格が大きくなってから根治手術を行います。
中間位型・高位型:新生児期に肛門を造る手術を行いません。排便機能にかかわる筋肉が発達してから肛門形成を行います。しかし、そのままではミルクを飲めないので、一時的に人工肛門を造ります。便路を確保し、ミルクを飲めるようにします。その後、乳児になって赤ちゃんの体格が大きくなってから、根治手術を行います。根治術のタイミングや術式は、本人の状態や病型に合わせて決定します。根治術後に人工肛門を閉鎖する手術を行うと、肛門から排便できるようになります。
➢ 手術方法
低位型:瘻孔の位置が正常の肛門に近い場合は、瘻孔から本来肛門があるべき位置まで切り開く事で肛門を造ります。瘻孔の位置が遠い場合は、瘻孔をくり抜いて、本来肛門があるべき位置まで移動させます。瘻孔が無い場合は、本来肛門がある位置を切開して、直腸盲端を探して引き下ろします。
中間位型・高位型:直腸盲端を探して、排便機能に関わる筋肉(恥骨直腸筋)に直腸を正確に通して、肛門を造ります。また、瘻孔が尿路や膣に繋がっている場合が多く、正しい位置で瘻孔を切り離すことも重要です。お腹側からもしくは、おしり側からアプローチします。当科では腹腔鏡手術を行っており、カメラでお腹の中から恥骨直腸筋を拡大して視ることで、正確に直腸を通すルート
予後
排便機能は、低位型では多くは良好になりますが、中間位型や高位型では便秘や便失禁などの排便障害がみられることが多くなります。一番の問題点は便失禁ですが、浣腸を行うことで予防できることが多いです。多くの症例が、学童期・思春期には便意の改善とともに、自分なりの排便管理が身に付きます。当科では、保育園・幼稚園・学校での日常生活を問題なく送れることが最も重要であると考えており、排泄ケアを専門とする看護師と協力して、一日も早い排便機能の確立のために、お子さまとご両親のストレスにならない管理を目指しています。
便秘(機能性便秘)とは
便秘は子どもにもよくある症状で、小児科受診患者の約3-5%を占めるといわれています。そのうち95%は臓器に異常の無い機能性の便秘です。よくあるとはいっても適切に治療することが大切です。治療が遅れたり不十分であったりすると、ひどい便秘のために失禁することもあり、精神的・社会的な問題となり得ます。
症状
症状は多彩ですが、一般的には排便回数が週に2回未満で、腹痛や排便時の肛門痛を伴います。①離乳食などの固形物の摂取開始、②トイレ訓練開始、③就学などを契機に症状が出ることが多いです。最初に腹痛や肛門痛などで排便を我慢してしまい、便が腸内に溜まることで腸が伸ばされ筋肉や神経が正常に機能できなくなります。すると便が停滞し、かつ硬くなっていき更に排便が困難になるという悪循環に陥ります。固い便のまわりから軟らかい便が少しずつ漏れ出て、便失禁してしまうこともあります (図1)。
図1
治療
診察や検査で臓器に何らかの異常のある器質的な便秘を否定した上で、まずは宿便を排泄することから始めます。浣腸や洗腸(お尻に管を入れて腸内の便を洗い流す)をしたり、下剤や坐剤などのお薬を使ったりして排便を促します。一旦便秘を解消してあげることで、便秘の悪循環を解除してあげることが大切です。次に緩下剤などの便を柔らかくして排便しやすくするお薬や、腸の動きを活発にして排便を促すお薬などを使用します。また、行動療法で排便習慣をつけ、食生活にも注意して、便秘の再発を防ぎます。良好な排便を得られるようになれば、少しずつ下剤を減らしていきます。最終的には薬を使用しなくても良好な排便を得られるようになることが目標です。これらの治療法で改善がみられず、背景に器質的な病気がある際は、その病気や病態に応じた適切な手術が必要になることもあります。
胆嚢、胆汁、うんちの色
胆嚢は肝臓の下にあるナスのような形をした嚢状の器官で、肝臓で作られた胆汁が貯留され、濃縮されます。  胆汁は肝臓で作られ、色は黄褐色をしたアルカリ性の液体です。胆汁そのものには消化作用はありませんが、十二指腸で膵液と一緒になることで、特に脂肪を吸収しやすくします。通常、便の色が茶色いのも胆汁によるものです。
胆道閉鎖症とは
胆道閉鎖症とは、胆管(胆汁の通り道)が先天性もしくは生まれた後すぐに閉塞を来して、肝臓から腸へ胆汁を出せない病気です。放置すればやがて肝硬変となり、肝不全、食道静脈瘤破裂、感染症などで死に至ってしまう病気です。 肉眼的な所見や胆道造影の所見で細かく分かれていますが、基本的な分類は閉塞部位によって分けられます(図1)。 一旦形成された胆管が、なんらかの障害(ウィルス感染や炎症によるもの、発生の異常など様々な説がありますがはっきりとはわかっていません)で閉塞すると考えられています頻度は1万出生に1例程度の珍しい病気で女児にやや多いと言われています。脾臓の異常(多脾など)や血管の異常が10%程度に合併すると言われています。
図1
症状

初期

➢黄疸
体や白目の部分が黄色くなる。
灰白色便
便に胆汁が混ざらないために便が白くなる。母子健康手帳に添付されている便色カラーカードを参照して、便の色がおかしいようでしたら医療機関への受診が必要です。
肝腫大
触診で肝臓がよく触れる。

進行すると

脾腫
肝硬変の進行に伴い、血管の圧が上昇し脾臓が大きくなる。
出血傾向・頭蓋内出血
ビタミンKの欠乏による。
栄養障害・腹水・くる病など
濃黄色尿
胆道閉鎖症では胆汁が腸に流れ出ないことから、便の色の素となる胆汁中の色素であるビリルビンが肝臓から血液中に逆流して、腎臓から尿中に出る。
検査
超音波検査
胆嚢が小さいもしくは見えない。変形している。肝門部が光って見える。(線維化の徴候)
臨床検査
ビリルビン(黄疸の数値)、肝機能検査、尿検査、便の検査など
胆道シンチグラフィ
投与した薬剤が胆管から腸管に排泄されない(図2)。
図2
MRI
胆管の走行をみる

※他に十二指腸液検査、肝生検など

治療
手術により持続的な胆汁排泄を獲得することにより黄疸を無くすことと、できるだけ自分の肝臓で長期間生存することが目標です。手術以外で治す方法は残念ながら現在の医療ではありません。 手術後は,胆汁の流出をよくする薬(利胆剤),胆管炎予防のための抗生物質の投与や、脂溶性ビタミン剤,ミネラル剤の補充などで治療が行なわれます.それらは退院後も継続して内服することが薦められています。

手術後,長い期間にわたって気をつけなければならない合併症として、胆管炎以外に門脈圧亢進症、肝内結石症、肝肺症候群などがあります。手術後も黄疸がなくならない場合や黄疸がなくなっても肝臓が徐々に硬くなるような場合には、やがて肝硬変となり、さらに肝不全に進みます。このような場合は腹水がたまったり栄養状態が悪くなって成長できなくなったりしますので,肝臓移植が必要となります。
➢ 手術方法
まず、胆嚢を探します。胆嚢に直接針を刺し造影を行います。胆道が描出されれば肝臓の一部を生検して手術は終了です。もし胆道が描出できなければ、下記の手術を行います。
① 肝管腸吻合術
肝外の閉塞した胆管を切除し、肝管と消化管と吻合する術式です。しかし、この術式が適応となるのは10%ほどしかありません。
② 肝門部腸吻合術(葛西法)
90%の症例は吻合不能型であり、この術式を施行します。日本で開発された術式で、世界中で行われています。閉塞した索状の胆管を切除し、その切離面に存在する微少な胆管から流出する胆汁を、消化管に開放するために肝門部と腸管を吻合します(図3)。
図3
また、腸管を用いて胆汁の流れ道を作る胆道再建を行いますが、Roux-en Y型空腸吻合術という方法が一般的に行われます(図3)。 多くの施設では開腹手術を行っていますが、近年一部の施設では腹腔鏡での手術も行われるようになってきています。基本的な内容は同じですが、限られた器具で手術を施行するため難易度が高く十分な経験が必要な手術です。

肝移植

 肝硬変が進んでいる場合や、根治術後も胆汁排泄が得られず黄疸が増強する場合、重症な続発症を発症した場合は肝移植の適応となります。
 ※手術後も胆汁の排出が乏しく、黄疸の改善が悪い時やコントロール困難な続発症が生じた時には肝移植が必要となります。
術後長期にわたって気をつけなければいけない合併症
  • 胆管炎
  • 肝内結石、肝内胆管拡張
  • 腸閉塞
  • 門脈圧亢進症(肝の線維化の進行によりおきます。時に大出血を起こすことがあります。重症化すると移植ができなくなることがあります。)
  • 食道静脈瘤、脾腫(内視鏡での硬化療法や結紮が必要となったり、脾臓の血管塞栓術や摘出が必要となったりすることがあります。)
  • 肝肺症候群、門脈肺高血圧症(低酸素血症を呈したり、息切れや心不全を起こしたりすることがあります。)
予後
術後1年目で肝移植を行うことなく、黄疸なしで生存しているのは約60%と言われています。上記のように術後きわめて長期間を経ての合併症出現もあるので、定期的な通院が必要です。
胆道拡張症とは
胆道拡張症とは、肝臓と十二指腸との間にある胆管が拡張している病気です(図1)。胆道が拡張しているために、胆汁の流れが悪くなり、黄疸や白っぽい便、お腹にしこりを触れるといった症状がおこります。子どものときに見つかることが多い病気ですが、大人になって発見されることもあります。この病気では、膵管と胆管が十二指腸の手前で合わさって一つの管になってしまう合流異常という奇形が見つかることが多く、この奇形があると胆管の中で膵液と胆汁が混じりあうために、消化酵素が胆管の壁を傷つけ腹痛を発生させたりします。症状は嘔吐から軽い腹痛を繰り返していることまで様々です。また膵液の胆管への逆流が原因で癌が発生することがあります。原因として、胆汁の通過障害によって二次的に生じたという説や元々胆管の壁が脆弱であったという説、膵液の胆管内への逆流が原因という説などがありますがはっきりとはわかっていません。頻度は、具体的にはわかっていませんが、東洋人に多く、女児が男児の4倍多いと言われています。
図1
症状
初期
  • 腹痛
  • 嘔気・嘔吐
  • 黄疸:体や白目の部分が黄色くなる。
  • 腹部腫瘤
  • 発熱
  • 灰白色便:便に胆汁が混ざらないために便が白くなる。母子健康手帳に添付されている便色カラーカードを参照して、便の色がおかしいようでしたら医療機関への受診が必要です。
検査
  • 超音波検査:拡張した胆管がみえる。
  • 磁気共鳴胆管膵管造影(MRCP):総胆管の拡張とその下部の狭窄、膵管と胆管の合流の異常などをみる(図2)。
  • 胆道シンチグラフィ:胆道が拡張してみえる。胆汁の排泄能がわかる。
  • 内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP):胆管の拡張や走行、膵管との合流異常などをみる。
  • CT:胆管の走行など解剖学的位置関係を把握する。
図2
※ 他に十二指腸液検査、肝生検など
治療
拡張した胆管を取り除き、腸管を利用した新しい胆汁の通り道を作成し、膵液と胆汁の流れを分けてしまう分流手術を行います(図3)。
図3
合併症・予後
手術をした後の経過は一般に良好です。ただ術後5~10年以上を経過した時に、肝臓や膵臓に石(肝内結石・膵石)ができたり、腸と胆管とのつなぎ目が狭くなったりする事が起こります。また胆道癌のリスクもあるので、調子がよくても病院での定期検診が必要です。
たんどうかくちょうしょうのとしこちゃん
こどもの胆道拡張症という病気を、お子様でもわかりやすいように説明したビデオです。
メッケル憩室とは
メッケル憩室は最も頻度の高い腸管の奇形のひとつで、発生頻度は無症状例を含めると1~2%といわれています。男児が女児の約2倍、多い傾向があります。その位置は、大腸に近い小腸(回腸)に多くあるとされています。

赤ちゃんは、お母さんのお腹に中いる初期の頃には、成長のために卵黄(卵の黄身)をもっていて、卵黄からの栄養を吸収するために、卵黄と自分の腸が卵黄嚢管という管でつながっています。卵黄嚢管は、赤ちゃんのお臍をつらぬいていますが、早い時期に消えてなくなります。この卵黄嚢管が消えそこなって、腸とつながっているあたりの部分が残ったものがメッケル憩室です。一般的には図1のように小腸の一部が袋状に飛び出す形になります。また、卵黄嚢管の残り方によっては、臍ポリープ、臍嚢胞、臍腸管嚢胞、臍腸瘻、臍腸管索などの様々な形態をとります。
症状
メッケル憩室の内側には、小腸の組織だけではなく、胃の粘膜や膵臓の組織が入っていることがあります。メッケル憩室はそれ自体では無症状ですが、内側に酸や消化管酵素を分泌する胃の粘膜や膵臓の組織があると、小腸の粘膜がただれ、炎症、潰瘍、出血(時に大量の出血)、消化管穿孔、腸重積などを伴うことがあります。また、臍腸管索が原因で腸閉塞が起きる場合もあります。メッケル憩室炎の場合は、発熱や臍の辺りが痛くなる等の症状が急性虫垂炎(俗にいう盲腸)と似ていますので、注意が必要です。
治療
下血で発症する場合は、胃潰瘍の治療に使う薬剤が効果的で、緊急手術になることが少なく、出血シンチグラフィーにより診断できる可能性が高いことが特徴です(大出血が起こり、血圧が保てない状況では、放射線治療や緊急手術が必要になります)。一方で、憩室炎、消化管穿孔、腸重積で発症した場合には術前診断は困難であることが多く、緊急手術に踏み切る場合が多いのが特徴です。
手術方法
手術は全身麻酔を使って眠った状態で行ないます。各病院によって手術方法は異なりますが、大きくわけると腹腔鏡を使って行なう場合とそうでない場合があります。どちらの方法でも、症状や状態にあわせた手術治療になりますが、胃粘膜や膵臓の組織を残さないようにメッケル憩室を切り取ることが重要です。大出血を起こしている場合には、放射線治療で一時的に出血を止めたりすることがありますが、後日、手術治療で憩室を切り取ることが原則になります。
肛門周囲膿瘍とは
 肛門の周りが赤く腫れて膿がたまるようになることを肛門周囲膿瘍といいます。多くは生まれた後1か月から1歳くらいまでの赤ちゃんに多く、比較的よく見られる病気です。男児に圧倒的に多くみられます。原因としては肛門の奥の腸からの炎症が皮膚に及んだものと考えられています。乳児痔瘻と言われるものも一般的には同じ原因によるものと考えられています。
症状
下痢ややわらかい便の後に肛門の周りが赤く腫れて、時間が経つと皮膚が自然に開いて中から膿が出てきます。赤ちゃんは炎症による痛みで機嫌が悪く、排便時などに泣くようになります。膿瘍は良くなったり悪くなったりを繰り返すことが多いです。発熱や下痢が出ることもあります。
治療
治療としてはまず肛門の周りを清潔に保つことが大切です。排便のたびに洗浄を行っていただくことで早く治ります。うんちの性状を整えるためのお薬をお出しすることがあります。

膿が多く溜まっている場合などは皮膚を小さく切って、圧迫することで中の膿を出す治療が必要になります。自宅でもお母さんやお父さんに手伝っていくこともあります。

最近では漢方による治療も行われています。多くは1歳前後までに治ることが多いですが、肛門の奥の腸とつながる瘻管というものを形成してしまい、再発を繰り返す場合には手術による治療を検討します。
手術方法
形成されてしまった瘻管を切って開放する手術や瘻管をくりぬくようにして切除する方法があります。
合併症
うんちが出てくるところの手術なので感染が一番心配です。自宅での洗浄によりできる限り清潔に保つことが大切になってきます。
鼡径ヘルニア・陰嚢水腫とは
足の付け根であるそけい部に、腸などのお腹の臓器の一部が飛び出しぽこっと膨れる病気です。お母さんのお腹の中にいる間に、男児の場合は精巣が陰嚢内に降りてくるため、お腹の臓器を包む膜(腹膜)が引っ張られて袋状(腹膜症状突起)になります。女児の場合も、ヌック管と呼ばれる管が降りてきて、腹膜が足の付け根に沿って袋状に引っ張られます。通常この袋はお母さんのお腹の中にいる間に自然に閉じますが、袋が閉じないまま生まれてくる場合があります。泣いたりいきんだりしてお腹に力がかかると、腸や(女児の場合は)卵巣がこの袋にはまり込んでしまい、ヘルニアと呼ばれる状態になります。臓器が脱出せずに腹水のみがたまっている状態を陰嚢水腫・ヌック管水腫と呼びます。

とび出した腸などの臓器が、せまい袋にはまり込むと臓器がむくみ、血流が悪くなり、お腹の中に元に戻すことが難しくなります(嵌頓)。ぽこっと膨れた皮膚は硬く青黒くなります。不機嫌になり、腹痛、嘔吐、痛みなどの症状がでます。膨れた部分を戻せないと、はまり込んだ臓器の血流が悪くなり壊死してしまうので緊急手術が必要になります。
治療
1歳くらいまでは、自然に袋が閉じて治る方もいますが、手術が必要となる方が多いのが実情です。残念ながら薬での治療は出来ません。嵌頓を繰り返す場合や、卵巣の脱出を伴う場合などは脱出臓器が壊死してしまう危険性があるので、早めの手術を予定します。一方、陰嚢水腫やヌック管水腫は自然治癒する可能性もあるため数年間経過観察をすることがあります。
手術方法
手術の方法は「開腹」と「腹腔鏡」の2通りあります。
  1. 開腹手術
    皮膚のしわにそってそけい部を切開し、そこからヘルニアの袋を探します。
    周囲の精管(精子の通り道)や血管をわけ、ヘルニアの出入り口を糸でしばり閉じます。
  2. 腹腔鏡手術
    お臍の中を切開し、カメラを挿入します。同じ傷から鉗子を挿入し、左右のヘルニアの有無を確認します。そけい部より糸のついた針を刺して穴の周りに糸を通し、ヘルニアの袋の根元をしばります。
合併症
私たちは安全第一に手術を行っていますが、合併症はゼロではありません。今まで当科では経験したことがない合併症も含め一般的に、再発、精管や精巣動静脈の損傷等による不妊などが知られています。
あそこ、ぽこっ! ~そけいへるにあのおはなし~
「こどもの鼡径ヘルニアという病気を、お子様でもわかりやすいように説明したビデオです。
炎症性腸疾患とは
炎症性腸疾患は、血便・下痢を主体とした症状がある慢性的な腸炎を起こす疾患です。腸管の免疫機能の破綻が原因といわれており、腸炎の悪化と改善を繰り返す難治性の病気です。代表的疾患として潰瘍性大腸炎とクローン病があります。
症状
血便・下痢が主な症状ですが、腹痛、発熱、頻脈、体重増加不良などの症状もみられることがあります。またクローン病では難治性痔瘻や肛門周囲膿瘍などの肛門病変もよく見られます。小児では成人に比較して重症化がみられやすいため積極的な治療を要することが多いです。
治療
薬物療法や栄養療法を中心とした内科的な全身管理を行い、症状の消失または軽快した状態を維持させることが重要です。手術適応の原則は、全身状態が急に悪化するような穿孔(腸に穴があくこと)・大量出血・中毒性巨大結腸症・腸管狭窄などが生じたときに考慮されます。また潰瘍性大腸炎に関しては癌化のリスクが高い場合や高度の成長障害をきたすと考えられる場合には、大腸を全て摘出する場合もあります。
手術方法
手術は各々の症状に応じて様々な術式を選択します。大腸を全て摘出する場合には小腸を肛門に吻合するか、人工肛門にするなどの方法で排便管理が可能な状態とします。
予後
手術後に残存腸管の炎症や狭窄・腸閉塞などを生じたり、大腸を切除したりした場合に、水分の吸収能が失われることで下痢が継続するなどの合併症が少なからず生じます。また小児期に発症した場合には、成長の過程で症状や治療に伴って成長障害・思春期特有の心理的また社会的問題が生じることも多く専門的カウンセリングを含めた心理的なサポートについても考慮する必要があります。
この病気は国の難病に指定されており各種制度や公的支援に関しては難病情報センターのHPをご参照ください。
腹部外傷とは
交通事故や転倒、転落などの衝撃で、お腹の中の臓器(肝臓、腎臓、脾臓、膵臓、腸管など)が損傷することをいいます。子どものお腹の壁は成人に比べて弱いため、体の表面の傷が小さくても、お腹の中の臓器を損傷している可能性があります。また、子どもから症状や怪我をしたときの状況が聞き取りにくいため、成人より重症になりやすく、注意が必要です。
症状
多くは腹痛を伴いますが、受傷した直後には症状がはっきりしないことがあります。また腎臓を損傷すると血尿が出現します。お腹の中で出血が続いている場合、血圧が低下して意識がもうろうとするショックと呼ばれる状態になる危険性があり、緊急で治療が必要となります。
治療
まずは全身状態を落ち着かせるための治療を行います。呼吸が苦しい際には、喉に管を入れて呼吸をサポートする人工呼吸器が必要になることもあります。出血などで血圧が低下していれば点滴で血圧を維持します。出血した量によっては輸血が必要になります。X線写真や腹部超音波検査、CT検査を行って損傷した臓器を確認し、損傷の部位、程度に応じた治療を行います。基本は、安静にし内科的治療を行います。しかし、損傷部位が大きかったり、太い血管の損傷を伴っていて、血圧が保てない場合などは、血管内治療で血を止める場合や、稀に緊急手術が必要となる場合があります。
手術方法
緊急手術では、全身状態を落ち着かせるために、止血の為の処置を行います。しかし、損傷がひどい場合には損傷臓器を切除しなければならないことがあります。
合併症
損傷した臓器によって、胆汁漏(肝臓を損傷して消化液がお腹の中に漏れる)、膵液瘻(膵臓を損傷して消化液がお腹の中に漏れる)、仮性膵嚢胞(膵臓に膵液のたまりができる)、縫合不全(腸管をつないだ部分がくっつかず、腸液がお腹の中に漏れる)といった合併症が起こる可能性があります。
悪性腫瘍(がん)
• 腫瘍
小児腫瘍とは
子どもの腫瘍は、あらゆる部位で起こり得ます。成人の腫瘍とは性質が異なるため、小児科・小児外科専門の診察が望ましいです。小児外科では体表(皮膚)、頚部、肺(胸)、腹部臓器(お腹)などの腫瘍を診察します(心臓、骨、脳、血液の腫瘍以外を担当します)。 腫瘍のなかには良性のものや悪性(がん、肉腫など)のものまで様々であり、中には先天的な奇形が腫瘍のようにみえる病気もあります。良性の腫瘍の例としては類皮嚢腫・血管腫・成熟奇形腫などが挙げられます。悪性腫瘍の代表的なものには神経芽腫、肝芽腫、腎芽腫、横紋筋肉腫などがあります(詳細は小児外科学会ホームページにも記載があります)。 当科は歴史があり、先代の岩中督名誉教授から築き上げてきた小児内視鏡手術(胸腔鏡・腹腔鏡)に関しては日本でも有数の施設です。特に日本における小児の悪性腫瘍に対する腹腔鏡手術を先駆けて行ってきた実績があります。また、様々な関連施設で内視鏡手術を十分に経験した医員がおります。腹腔鏡に限らず、安全かつ低侵襲(体の傷が少ない・目立たない)な手術を目標に診療を行っております。 私たちの病院の小児腫瘍の診療体制の特徴としましては、チャイルドライフスペシャリスト(治療をうけているお子さまやご家族に心理社会的支援を行う専門職)、院内NST(栄養チーム)、院内学級、薬剤師、リハビリ(理学療法士、作業療法士など)、看護師など多職種との連携、他診療科との連携をとる体制が整っていることです。 他院からのご紹介、セカンドオピニオン(セカンドオピニオン外来へのリンク)、当科での治療希望など、気軽に相談していただけるよう努めてまいります。
症状
腫瘍(しこり)ができる場所によって様々な症状をおこします。分かりやすい症状としては、しこり、痛み、呼吸が苦しい、発熱、腹痛、便秘、発熱、嘔吐、血尿などで、腫瘍ができる部位によって異なります。これらの症状は分かりにくいことも多く、偶然発見されることや、進行するまで分からないこともよくあります。特に、小さな子どもの場合は、症状を正確に伝えられず、病気がみつかりにくいことも少なくありません。
治療
年齢・成長、病気の進行度等を十分に考えた上で、ひとりひとりに合った適切な治療を行います。必要に応じて、他の診療科や職種の方と連携して最適な治療を行います。また、エビデンスを重視した治療(根拠に基づいた標準治療)を基本としながらも、高度な最新の治療を提供し、ベストを尽くします。 先述したように、当科では腫瘍に対する内視鏡手術を日本で先駆けて積極的に取り入れてきた歴史と経験があります。安全と病気を治すことを一番の目標に治療することは当然のことですが、出来るだけ小さい傷で、将来の成長を考慮した手術を考えます。内視鏡手術では傷が目立たないだけでなく、手術後の痛み、傷の感染、手術の後の腸閉塞等の合併症を減らすことができると言われています。担当医の話を聞いて頂き、納得していただいた上で、皆で一緒に病気を治して行くように心がけています。
合併症
私たちは常に安全第一に手術を行っておりますが、合併症はゼロではありません。腫瘍の種類・場所、年齢、手術方法などによって異なります。詳細はこれらのことを考えてご説明致します。
泌尿器(おしっこの通り道)
停留精巣精巣捻転症包茎膀胱尿管逆流症先天性腎疾患
停留精巣とは
赤ちゃんがお母さんのお腹の中にいる間に、腰部で作られた精巣は陰嚢の中に下降します。この過程が不完全な場合に、精巣が陰嚢上部、もしくはそけい管・腹腔内に留まってしまうことがあります。これを停留精巣と呼びます。ふだんは精巣が陰嚢内にあり、時折そけい管内に移動するものを移動性精巣と呼びます。
症状
陰嚢の中にない精巣は、陰嚢の中にある場合に比べて2~3度高い温度環境にさらされており、そのような環境にある精巣は精子を作る機能が低下し、不妊の原因となります。また、固定されていないため、ねじれる原因となります。正常な精巣に比べ、精巣腫瘍ができやすいという報告もあります。
治療
停留精巣は4ヶ月頃までは自然下降するといわれているため、1歳頃までは経過観察を行います。それでも陰嚢内に精巣がない場合には手術を行います。移動性精巣については、自然治癒も見込めるため小学校にあがるころまで経過観察をし、治らない場合には手術をします。
手術方法
手術はそけい部を切開し、そけい管から精巣をみつけます。精管や精巣動静脈を傷つけないようして、陰嚢を切開した傷まで皮膚の下を通し引き出し、陰嚢に縫って固定します。

また、移動性精巣や精巣の位置が比較的袋に近い場合には陰嚢の傷のみで行うこともあります。逆に、精巣がお腹の中にある場合には腹腔鏡を用いて、精巣を探すことがあります。
精巣捻転症とは
精巣が回転したために精巣に行く血管・精管(精子を運ぶ管)が突然捻れる病気で、強い痛みと精巣の腫れを伴います(図1)。早急に捻れを戻さないと、精巣は壊死に陥り(図2)萎縮してしまいます。

症状が出てから24時間以内、できれば6~8時間以内に手術により捻転を解除すれば精巣を温存できることが多いのですが、それ以上経過すると壊死に陥った精巣を取らなくてはならなくなります。また、反対側の精巣も捻転を起こす可能性がありますので、同時に反対側の精巣の固定を勧められることもあります。時には胎内で捻転を起こす例があり、出生直後に精巣の腫れが見られることや、すでに壊死に陥った結果、萎縮あるいは消失していることもあります。

外傷や停留精巣などに伴って発症することもありますが、多くは明らかな誘因なく発症します。新生児及び胎児期と、陰嚢の容量増大が生じる思春期に多く発生します。
図1
図2
症状
  • 陰嚢痛・そけい部(足の付け根)痛・腹痛
  • 嘔吐・嘔気
  • 陰嚢の発赤・腫脹
  • 精巣を持ち上げると痛みが増強する。
検査
  • 超音波検査:精巣の血流が低下・途絶しているのがみえる。
  • 尿検査:異常がないことが多い。
治療
捻転を解除し、精巣が温存可能できそうであれば精巣を陰嚢内に固定します。すでに確実に壊死しているようであれば、摘出します。その場合、捻転防止のために対側の精巣を固定する事があります。

不確実な場合はひとまず温存して来る場合がありますが、虚血に陥った精巣を放置すると、正常な方の精巣が機能低下の可能性があるため、慎重に判断をしなければなりません。
せいそうねんてんのお話 ―どうなる?!おれのき〇たま―
精巣捻転という病気を、お子様でもわかりやすいように説明したビデオです。
包茎とは
おちんちんの先を包む皮膚(包皮)の口が狭いために、おちんちんの先(亀頭)を出せない状態をいいます。包皮が全くむけないものを真性包茎といい、包皮をめくって先を出せるものの通常は亀頭が被われているものを仮性包茎といいます。一般的に包茎といえば真性包茎をいいます。しかし、小児の包茎は病気ではなく、生理的な状態です。年齢が上がるにつれて徐々に亀頭が露出できるようになり、思春期後半には亀頭全体が露出できるようになります。そのため、包皮がむけないと言う理由だけで子どものときに特別な治療は不要と考えられています。
症状
子どもの包茎は生理的な状態であり、症状がない場合がほとんどですが、症状がでた場合には治療が必要となることがあります。細菌で化膿して腫れや赤み、痛みがでる亀頭包皮炎を起こした場合には、抗生物質の内服や軟膏で治療を行います。包皮を引っ張って無理におちんちんの頭を出そうとして狭い皮膚で締め付けられると、亀頭が腫れてしまうことがあります。このような状態を嵌頓包茎といい、亀頭が壊死に陥ることもあるため、緊急で元に戻す必要があります。また、おしっこをするときに、包皮におしっこがたまってふくらんだり、おしっこが細くしか出なくなったりすることがあります。新生児や乳児では尿路感染の原因になることがあるとされています。
治療
両親または本人に指で包皮をめくってもらうよう指導することがあります。この際には包皮を傷つけないよう注意が必要です。ステロイド軟膏を使用することもあります。亀頭包皮炎を繰り返す場合や、排尿障害、尿路感染をきたす場合、また嵌頓包茎の場合には、手術が必要となることがあります。
手術方法
背面切開術(包皮の最も締め付けの強い部分を縦に切開する)や、環状切開術(余剰皮膚を環状に切除する)を行って包皮の緊張をゆるめ、亀頭が露出するようにします。
合併症
私たちは安全第一に手術を行っていますが、合併症はゼロではありません。今まで当科では経験したことがない合併症も含めて、一般的なリスクとしては、以下のものが知られています。
  • 創感染(傷が膿んでしまう)
  • 後天性包茎(手術後に皮膚が狭くなって亀頭が露出できなくなる)
膀胱尿管逆流とは
腎臓で作られた尿は尿管を通って膀胱に貯まります。通常は膀胱にある尿が尿管や腎臓まで戻ることはありません。しかし、尿管と膀胱のつなぎ目の異常のため膀胱に貯まった尿が再び尿管さらには腎臓に逆戻りする現象を、膀胱尿管逆流と呼びます。
症状
最も多いのは尿路感染症と言って尿の通り道や腎臓に細菌が入り込んで起きる症状で、腎臓に細菌感染が起これば高熱や側腹部・背部痛が見られます(急性腎盂腎炎)。子どもが小さなときには高熱の他に下痢や嘔吐、不機嫌といった症状を伴うこともあります。年長児では高熱を出す前に、排尿する時の痛みや頻尿といった膀胱炎のような症状が見られることもあります。風邪の症状がないのに何回も高熱を繰り返す場合には、尿に異常がないかを小児科の先生に相談してみて下さい。

排尿が自立できる4~5歳を越えても昼間に尿もらしが続いたり、尿回数が多かったり、あるいは尿回数が異常に少ないといった排尿異常も、膀胱尿管逆流が原因の事があります。また、学校検尿で蛋白尿を指摘され、精査を加えるとすでに進行した腎障害を伴う逆流症が発見されることもあります。

妊娠中に行われる超音波検査や、新生児・乳児に対する超音波検査で腎臓の腫れ(水腎症)を指摘され、その後の検査で本疾患が見つかることがあります。

膀胱尿管逆流のために腎機能が低下し、腎不全に陥ることがあります。高血圧となることもあります。いずれも腎臓の発育が両側とも悪かったり、尿路感染により腎臓に傷がついたりしていることが原因と考えられており、このような腎臓病変をもつ方は注意が必要です。
治療
どのような治療をいつ行うかについては,子どもの年齢と性別(男女),逆流の程度,腎臓の傷の有無,尿路感染症の頻度と程度などを総合的に考えて判断することになりますので、専門医を受診することが必要です。

治療は尿路感染予防のため少量の抗生物質あるいは抗生物質を継続的に服用する方法と、逆流そのものを手術で止める方法とに分かれます。
手術方法
手術治療には、①お腹を切開して逆流の起こる部分を直接手術する方法と、②膀胱鏡という細長い器具をおしっこの通り道から挿入して逆流の起こる部分に薬剤を注射して直す方法とがあります。いずれも全身麻酔が必要になります。
  1. 当院では主にコーエン法という方法で、下腹部を約4~5cm切開して手術を行っています。傷はパンツに隠れるくらいの位置です。膀胱を一度切り開き、逆流しやすくなっている尿管と膀胱のつなぎ目を一度切り離し、逆流しにくい形で再度縫い付けます。具体的には、膀胱の粘膜と筋肉の壁の間に、切り離した尿管を這わせて縫い付けます。これにより尿で膀胱が充満すると、尿管も壁に押しつぶされるので逆流が起こりにくくなります(図1)。非常に逆流防止効果の高い手術です。
  2. 膀胱鏡を用いる治療は、おしっこの通り道から器具を挿入して治療を行いますので、体に傷がつかず、負担の少ない治療方法です。逆流の起こる部分にDeflux®という薬剤を注射して尿管の壁を膨らませ、通り道を狭くすることで逆流を防止します。前述の手術に比べると逆流防止効果が低く、複数回の治療が必要な場合があります。当院でも適応があると考えられる症例にはDeflux®も施行しています。
    図1
合併症
私たちは常に安全第一に手術を行っておりますが、合併症はゼロではありません。 今まで当院では経験したことがない合併症も含めて、一般的な手術のリスクとしては、以下のものが知られています。
  • 創感染(傷が膿んでしまう)
  • 再発
  • 狭窄(尿管を縫った部分が狭く尿が通過しない、一時的な事が多いです)
  • 尿路感染症
  • 高度な逆流の場合、術後も腎機能障害の危険があるので定期的な受診が必要です
先天性腎疾患(腎嚢胞や水腎症など)とは
超音波検査などで発見される先天性の腎の形態異常は大きく分けて2種類あります。腎臓に水の貯まった袋ができる嚢胞と、尿の流れが妨げられて尿が貯まってしまう水腎症などの病気です。

嚢胞ができる病気のうち、単純性腎嚢胞は大きさが0.5~4cmの嚢胞が、1つの腎に1~3個みられる病気で、無症状の事が多いです。多嚢胞腎では生まれた時から両側の腎臓に嚢胞が多発していて、徐々に腎臓の機能が悪化します。多発性異形成腎(multicystic dysplastic kidney)では最初から尿をつくる機能はほとんどありません。

腎臓でつくられた尿は、尿管、膀胱、尿道へと流れていきます。何らかの原因によって尿の流れが妨げられると、妨げられたところから上流で尿が停滞し貯っていきます。例えば腎臓と尿管との境目である腎盂尿管移行部の流れが悪いと腎臓の腎盂という部分が拡張し、水腎症という状態になります(図1)。
症状
最近では妊娠中の赤ちゃんの超音波検査で腎臓の形態が詳しくわかるようになったこともあり、生まれる前に腎臓の異常を指摘されるケースも増えています。その場合、無症状で生まれてくる事も多いですが、精密検査・治療の必要性について、専門医の診察を受けるようにしてください。妊娠中に胎児の治療が必要となる場合もあります。

腎嚢胞や水腎症が大きいと、これをお腹のしこりとして触れたり、お腹の痛み(鈍い痛みや、疝痛という鋭い痛み等)を示したり、あるいは貯留した尿に細菌が感染して高熱を出すこともあります。

多嚢胞腎では早いと乳幼児期に腎不全(腎臓で尿が作られなくなってしまう)に陥ります。両側の水腎症では、尿の流れが高度に妨げられて腎不全症状を示すことがあります。それでなくても、尿の流れが悪い状態を長く放置すると、次第に腎機能が悪くなってしまう事があります。
治療
単純性腎嚢胞の場合、多くは無症状で治療が不要です。多嚢胞腎では根本的な治療法はなく、腹痛や腎機能障害に対する対症療法が主になります。腎不全となった場合、腎臓の機能を代替するために、血液透析や腹膜透析といった治療が必要になります。

水腎症では、症状の確認や腎機能の検査などを行い、手術治療を行うか、経過観察を行います。軽い水腎症では腎機能も悪くはならず、拡張が自然に良くなることが多いようです。経過観察中に腎機能が悪くなる場合があり、その時は手術を行います。また、腹痛などの症状を伴う水腎症は一般的に手術治療が行われます。
手術方法
嚢胞腎が感染を繰り返す場合、嚢胞腎の摘出術を行う事があります。嚢胞腎の大きさや、病状によって手術方法が異なります。

水腎症では尿の通過障害の原因となっている尿管の一部を切除し、健常な腎盂と尿管を細い糸でつなぎ合わせる腎盂形成術を行っています。水腎症のある側の腰のあたりで約4~5cmの手術創で行います。手術で縫い合わせた場所にカテーテルという管を置いておく場合があります。カテーテルの抜去は、約3か月後に全身麻酔でおしっこの通り道から膀胱鏡という細い器具を挿入して行うので、新たに創ができることはありません。
合併症
私たちは常に安全第一に手術を行っておりますが、合併症はゼロではありません。 今まで当院では経験したことがない合併症も含めて、一般的な手術のリスクとしては、以下のものが知られています。
  • 創感染(傷が膿んでしまう)
  • 腸閉塞(術後に腸が癒着するため食べ物の通りが悪くなり、腹痛や嘔吐が出現)
  • 縫合不全(腎盂と尿管を縫いつないだ部分から尿が漏れる)
  • 再狭窄、水腎症の再発
  • 尿路感染症
  • 尿路結石
  • 高血圧
―どうなる?!おれのこいー すいじんしょうのお話
すいじんしょうという病気を、お子様でもわかりやすいように説明したビデオです。